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令和2年-問17 行政法 行政事件訴訟法

Lv3

問題 更新:2023-11-20 15:41:02

狭義の訴えの利益に関する次のア~エの記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、正しいものの組合せはどれか。

ア.森林法に基づく保安林指定解除処分の取消しが求められた場合において、水資源確保等のための代替施設の設置によって洪水や渇水の危険が解消され、その防止上からは当該保安林の存続の必要性がなくなったと認められるとしても、当該処分の取消しを求める訴えの利益は失われない。

イ.土地改良法に基づく土地改良事業施行認可処分の取消しが求められた場合において、当該事業の計画に係る改良工事及び換地処分がすべて完了したため、当該認可処分に係る事業施行地域を当該事業施行以前の原状に回復することが、社会的、経済的損失の観点からみて、社会通念上、不可能であるとしても、当該認可処分の取消しを求める訴えの利益は失われない。

ウ.建築基準法に基づく建築確認の取消しが求められた場合において、当該建築確認に係る建築物の建築工事が完了した後でも、当該建築確認の取消しを求める訴えの利益は失われない。

エ.都市計画法に基づく開発許可のうち、市街化調整区域内にある土地を開発区域とするものの取消しが求められた場合において、当該許可に係る開発工事が完了し、検査済証の交付がされた後でも、当該許可の取消しを求める訴えの利益は失われない。

  1. ア・イ
  2. ア・ウ
  3. イ・ウ
  4. イ・エ
  5. ウ・エ
  解答&解説

正解 4

解説

イ、エが正しい。

森林法に基づく保安林指定解除処分の取消しが求められた場合において、水資源確保等のための代替施設の設置によって洪水や渇水の危険が解消され、その防止上からは当該保安林の存続の必要性がなくなったと認められるとしても、当該処分の取消しを求める訴えの利益は失われない。 ア.誤り

代替施設の設置により、洪水・渇水の危険が解消されれば、訴えの利益は失われる。

「保安林の指定が違法に解除され、それによって自己の利益を害された場合には、右解除処分に対する取消しの訴えを提起する原告適格を有する者ということができるけれども・・・本件におけるいわゆる代替施設の設置によって右の洪水や渇水の危険が解消され、その防止上からは本件保安林の存続の必要性がなくなったと認められるに至ったときは、もはやAと表示のある上告人らにおいて右指定解除処分の取消しを求める訴えの利益は失われるに至ったものといわざるをえない」(長沼ナイキ基地訴訟:最判昭和57年9月9日)

土地改良法に基づく土地改良事業施行認可処分の取消しが求められた場合において、当該事業の計画に係る改良工事及び換地処分がすべて完了したため、当該認可処分に係る事業施行地域を当該事業施行以前の原状に回復することが、社会的、経済的損失の観点からみて、社会通念上、不可能であるとしても、当該認可処分の取消しを求める訴えの利益は失われない。 イ.正しい

土地改良事業の施行認可処分は、当該事業の前提にあるものであり、それが違法である場合に事実上原状回復できないのは事情判決で対応すべきことであるから、取消訴訟係属中に工事が完了しても、訴えの利益は失われない(最判平成4年1月24日)。
土地改良事業の施行の認可処分の取消訴訟において、土地改良事業の工事等が完了して原状回復が社会的、経済的損失の観点からみて、社会通念上不可能となった場合であっても、このような事情は、行政事件訴訟法31条(事情判決の法理)の適用に関して考慮されるべき事柄であって、事業の施行の認可の取消しを求める訴えの利益は消滅しないとしている(最判平成4年1月24日)。

なお、一審・二審は、訴えの利益は消滅するとしていた。

建築基準法に基づく建築確認の取消しが求められた場合において、当該建築確認に係る建築物の建築工事が完了した後でも、当該建築確認の取消しを求める訴えの利益は失われない。 ウ.誤り

建築確認処分の取消しを求める訴えにおいて、訴えの利益は、建築物の建築工事の完了によって失われる。

「建築確認は、それを受けなければ右工事をすることができないという法的効果を付与されているにすぎないものというべきであるから、当該工事が完了した場合においては、建築確認の取消しを求める訴えの利益は失われるものといわざるを得ない。」(最判昭和59年10月26日)。

都市計画法に基づく開発許可のうち、市街化調整区域内にある土地を開発区域とするものの取消しが求められた場合において、当該許可に係る開発工事が完了し、検査済証の交付がされた後でも、当該許可の取消しを求める訴えの利益は失われない。 エ.正しい

開発許可の取消しを求める訴訟において、工事が完了し、検査済証が交付された場合の訴えの利益の有無は、市街化区域における場合と市街化調整区域における場合、判例では、その判断が分かれている。

まず、市街化区域の場合は、「あらかじめ申請に係る開発行為が都市計画法33条所定の要件に適合しているかどうかを公権的に判断する行為であって、これを受けなければ適法に開発行為を行うことができないという法的効果を有するものであるが、許可に係る開発行為に関する工事が完了したときは、開発許可の有する法的効果は消滅するものというべきである」として、「都市計画法29条による許可を受けた開発行為に関する工事が完了し、当該工事の検査済証の交付がされた後においては、許可の取消しを求める訴えの利益は失われる」と判示している(最判平成5年9月10日、最判平成11年10月26日)。

一方、市街化調整区域の場合は、開発許可され、その効力を前提とする検査済証が交付されて工事完了公告がされることにより、予定建築物等の建築等が可能となるという法的効果が生ずることを理由に、訴えの利益は消滅していないと判示している。

「市街化調整区域のうち、開発許可を受けた開発区域以外の区域においては、都市計画法43条1項により、原則として知事等の許可を受けない限り建築物の建築等が制限されるのに対し、開発許可を受けた開発区域においては、同法42条1項により、開発行為に関する工事が完了し、検査済証が交付されて工事完了公告がされた後は、当該開発許可に係る予定建築物等以外の建築物の建築等が原則として制限されるものの、予定建築物等の建築等についてはこれが可能となる。
そうすると、市街化調整区域においては、開発許可がされ、その効力を前提とする検査済証が交付されて工事完了公告がされることにより、予定建築物等の建築等が可能となるという法的効果が生ずるものということができる。
したがって、市街化調整区域内にある土地を開発区域とする開発行為ひいては当該開発行為に係る予定建築物等の建築等が制限されるべきであるとして開発許可の取消しを求める者は、当該開発行為に関する工事が完了し、当該工事の検査済証が交付された後においても、当該開発許可の取消しによって、その効力を前提とする上記予定建築物等の建築等が可能となるという法的効果を排除することができる。
市街化調整区域内にある土地を開発区域とする開発許可に関する工事が完了し、当該工事の検査済証が交付された後においても、当該開発許可の取消しを求める訴えの利益は失われないと解するのが相当である」(最判平成27年12月14日)。

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