平成26年-問33改題 民法 債権
Lv5
問題 更新:2024-01-07 12:12:41
取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものに対する弁済等に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはいくつあるか。
ア.他人名義の預金通帳と届出印を盗んだ者が銀行の窓口でその代理人と称して銀行から払戻しを受けた場合に、銀行が、そのことにつき善意であり、かつ過失がなければ、当該払戻しは、取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものへの弁済として有効な弁済となる。
イ.他人名義の定期預金通帳と届出印を盗んだ者が銀行の窓口で本人と称して、定期預金契約時になされた定期預金の期限前払戻特約に基づいて払戻しを受けた場合に、銀行がそのことにつき善意であり、かつ過失がなければ、当該払戻しは、取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものへの弁済として有効な弁済となる。
ウ.他人名義の定期預金通帳と届出印を盗んだ者が銀行の窓口で本人と称して銀行から定期預金を担保に融資を受けたが、弁済がなされなかったため、銀行が当該貸金債権と定期預金債権とを相殺した場合に、銀行が、上記の事実につき善意であり、かつ過失がなければ、当該相殺は、取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものへの弁済の規定の類推適用により有効な相殺となる。
エ.債権者の被用者が債権者に無断でその印鑑を利用して受取証書を偽造して弁済を受けた場合であっても、他の事情と総合して当該被用者が取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものと認められるときには、債務者が、上記の事実につき善意であり、かつ過失がなければ、当該弁済は、取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものへの弁済として有効な弁済となる。
オ.債権が二重に譲渡され、一方の譲受人が第三者対抗要件を先に具備した場合に、債務者が、その譲受人に対する弁済の有効性について疑いを抱いてもやむをえない事情があるなど、対抗要件で劣後する譲受人を真の債権者であると信ずるにつき相当の理由があるときに、その劣後する譲受人に弁済すれば、当該弁済は、取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものへの弁済として有効な弁済となる。
- 一つ
- 二つ
- 三つ
- 四つ
- 五つ
正解 5
解説
本問で問われている判例知識は細かいものが多く、さらには個数問題ですべて「妥当である」となるのだから、相当な難問である。
債務者が債権者に対して債務の弁済をしたときは、その債権は、消滅する(民法473条)。
問題なのは、弁済の要件として、「誰に」対して弁済をするべきかである。当然、債権者等の弁済受領権限のある者に対して弁済しなければ弁済の要件は満たされず、債務が消滅することはないのが原則である。
しかし民法は「受領権者(債権者及び法令の規定又は当事者の意思表示によって弁済を受領する権限を付与された第三者をいう。以下同じ。)以外の者であって取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものに対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する(民法478条)」として、弁済受領権限を本来的には持たない者に対する弁済でも、債務消滅の効果を認めることがある。
他人名義の預金通帳と届出印を盗んだ者が銀行の窓口でその代理人と称して銀行から払戻しを受けた場合に、銀行が、そのことにつき善意であり、かつ過失がなければ、当該払戻しは、取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものへの弁済として有効な弁済となる。 ア.妥当である。
「取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するもの」とは、本人として債権を行使する者でなければならないのか、それとも代理人として債権を行使する者でもかまわないのであろうか。明文がないため、解釈が必要になる。
判例は、債権者の代理人と称して債権を行使する者についても、民法478条の債権の準占有者(新民法における取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するもの)にあたるとしている(最判昭和37年8月21日)。
他人名義の定期預金通帳と届出印を盗んだ者が銀行の窓口で本人と称して、定期預金契約時になされた定期預金の期限前払戻特約に基づいて払戻しを受けた場合に、銀行がそのことにつき善意であり、かつ過失がなければ、当該払戻しは、取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものへの弁済として有効な弁済となる。 イ.妥当である。
定期預金の期限前払戻特約に基づいてする払戻しは、民法第478条の「弁済」に該当するのであろうか。特約に基づく行為であるのなら、契約の合意解除の性質があるため、弁済にあたるかどうかが論点となる。弁済にあたるならば、民法478条の適用があると考えられる。
判例は、「期限前払戻の場合における弁済の具体的内容が契約成立時にすでに合意により確定されているのであるから、銀行のなした期限前払戻は、民法478条にいう弁済に該当し、同条の適用をうけるものと解するのが相当」としている(最判昭和41年10月4日)。
したがって、当該払戻しは、取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものへの弁済として有効な弁済となる。
他人名義の定期預金通帳と届出印を盗んだ者が銀行の窓口で本人と称して銀行から定期預金を担保に融資を受けたが、弁済がなされなかったため、銀行が当該貸金債権と定期預金債権とを相殺した場合に、銀行が、上記の事実につき善意であり、かつ過失がなければ、当該相殺は、取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものへの弁済の規定の類推適用により有効な相殺となる。 ウ.妥当である。
相殺は弁済と同様の機能があることは事実であるが、民法478条の「弁済」と扱ってよいのであろうか。
判例は、「銀行が、定期預金債権に担保の設定をうけ、または、当該債権を受働債権として相殺をする予定のもとに、新たに貸付をする場合においては、預金者を定め、その者に対し貸付をし、これによって生じた貸金債権を自働債権として定期預金債務と相殺がされるに至ったとき等は、実質的には、定期預金の期限前払戻と同視することができるから、銀行は、銀行が預金者と定めた者(表見預金者)が真実の預金者と異なるとしても、銀行として尽くすべき相当な注意を用いた以上、民法478条の類推適用があると解するのが相当」とした(最判昭和48年3月27日)。
債権者の被用者が債権者に無断でその印鑑を利用して受取証書を偽造して弁済を受けた場合であっても、他の事情と総合して当該被用者が取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものと認められるときには、債務者が、上記の事実につき善意であり、かつ過失がなければ、当該弁済は、取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものへの弁済として有効な弁済となる。 エ.妥当である。
受取証書が偽造された場合は、民法478条の問題として処理することはできないのであろうか。
判例は、偽造された偽物の受取証書を持参する者は、民法478条の「債権の準占有者(新民法における取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するもの)」にあたる(大判昭和2年6月22日)として、民法478条の問題として処理することができるとしている。
したがって、偽造された受取証書を持参する者への弁済は、取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものへの弁済として有効な弁済になる。
債権が二重に譲渡され、一方の譲受人が第三者対抗要件を先に具備した場合に、債務者が、その譲受人に対する弁済の有効性について疑いを抱いてもやむをえない事情があるなど、対抗要件で劣後する譲受人を真の債権者であると信ずるにつき相当の理由があるときに、その劣後する譲受人に弁済すれば、当該弁済は、取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものへの弁済として有効な弁済となる。 オ.妥当である。
債権の二重譲渡の場面における、対抗要件で劣後する債権の譲受人は、民法478条の「取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するもの」にあたり、同条の適用はあるのだろうか。
これについて判例は「二重に譲渡された指名債権の債務者が、民法467条2項所定の対抗要件を具備した他の譲受人(「優先譲受人」)より、のちにこれを具備した譲受人(「劣後譲受人」)に対してした弁済についても、民法478条の規定の適用があるものと解すべきである」とした(最判昭和61年4月11日)。
したがって、劣後する譲受人への弁済が有効な弁済になる。