平成26年-問32 民法 債権
Lv3
問題 更新:2024-01-07 12:11:21
債務引受および契約上の地位の譲渡(契約譲渡)に関する次の記述のうち、判例に照らし、妥当なものの組合せはどれか。
ア.免責的債務引受は、債権者と引受人のみの契約でなすことはできず、債務者(原債務者)を含む三者間の契約でしなければならない。
イ.併存的(重畳的)債務引受は、債務者(原債務者)の意思に反しても、債権者と引受人のみの契約でなすことができる。
ウ.併存的(重畳的)債務引受があった場合、別段の意思表示がないときは、債務者(原債務者)と引受人は、債権者に対し、それぞれ等しい割合で分割債務を負う。
エ.売主の地位や買主の地位の譲渡は、当該売買契約の相手方の承諾がないときは、その相手方に対して効力を生じない。
オ.賃貸借の目的となっている不動産の所有者がその所有権とともに賃貸人の地位を他に譲渡することは、賃貸人の義務の移転を伴うから、賃借人の承諾を必要とし、新旧所有者間の契約ですることはできない。
- ア・ウ
- ア・オ
- イ・ウ
- イ・エ
- エ・オ
正解 4
解説
債務引受とは、債務の同一性を変えることなく、契約で債務を移転するこという。
免責的債務引受 | 旧債務者が債務から解放され、債務を引受けた者が新たに債務者になる債務引受 |
---|---|
併存的(重畳的)債務引受 | 債務の引受人が原債務者とともに(つまり連帯して)債務者になる債務引受 |
免責的債務引受は、債権者と引受人のみの契約でなすことはできず、債務者(原債務者)を含む三者間の契約でしなければならない。 ア.妥当でない。
「三者間の契約でしなければならない」という部分が妥当でない。
免責的債務引受ができる場面は問題文の場合含め下記の3つが考えられる。
- 旧債務者、新債務者、債権者の三面契約(契約自由の原則により、当然に可)
- 新債務者と債権者間の契約による免責的債務引受けは、債権者が旧債務者に対してその旨を通知した時に、効力を生じる(民法472条2項)
- 旧債務者、新債務者間の契約による免責的債務引受けは、債権者の承諾を停止条件として可(民法472条3項)
併存的(重畳的)債務引受は、債務者(原債務者)の意思に反しても、債権者と引受人のみの契約でなすことができる。 イ.妥当である。
併存的債務引受ができる場面は、問題文の場合含め下記の3つが考えられる。
- 原債務者、新債務者、債権者の三面契約
(契約自由の原則により、当然に可) - 新債務者、債権者間の契約による併存的債務引受けは、原債務者の意思に反しても可(民法470条2項)
(併存的債務引受の効果は、原債務者と新債務者の連帯債務関係になるだけであり、債務引受後も、原債務者は債務を弁済することができるため) - 原債務者、新債務者間の契約による併存的債務引受けは、第三者のためにする契約(民法537条)として成立し、債権者の受益の意思表示によって、債権者は新債務者に対する権利を取得する(民法470条3項及び4項)
併存的(重畳的)債務引受があった場合、別段の意思表示がないときは、債務者(原債務者)と引受人は、債権者に対し、それぞれ等しい割合で分割債務を負う。 ウ.妥当でない。
併存的(重畳的)債務引受をすると分割債務になるとする本肢は妥当でない。
併存的債務引受の引受人は、債務者と連帯して、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担する(民法470条1項)。
売主の地位や買主の地位の譲渡は、当該売買契約の相手方の承諾がないときは、その相手方に対して効力を生じない。 エ.妥当である。
本肢は契約上の地位の移転(譲渡)に関する問題である。
契約上の地位の移転とは、契約当事者たる地位を承継させることを目的とする契約である。
債務引受や債権譲渡との違いは、移転するのは債権債務のみならず、取消権や解除権といったものまで移転するところである。
契約上の地位の移転について、条文は、契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において、その契約の相手方がその譲渡を承諾したときは、契約上の地位は、その第三者に移転する(民法539条の2)。
債権債務だけでなく、取消権等まで移転して、影響が大きいためである。
したがって、売主の地位や買主の地位の譲渡は、当該売買契約の相手方の承諾がないときは、その相手方に対して効力を生じない。
賃貸借の目的となっている不動産の所有者がその所有権とともに賃貸人の地位を他に譲渡することは、賃貸人の義務の移転を伴うから、賃借人の承諾を必要とし、新旧所有者間の契約ですることはできない。 オ.妥当でない。
本肢は「契約上の地位の移転」の要件にかかる問題である。
契約上の地位の移転をするためには、原則として三者間の合意が必要なのは肢エ解説のとおりであるが、あくまで「原則として」である。
条文によると「不動産の譲渡人が賃貸人であるときは、その賃貸人たる地位は、賃借人の承諾を要しないで、譲渡人と譲受人との合意により、譲受人に移転させることができる(民法605条の3)。」
補足すると、賃貸人(大家さん)の義務は修繕等であって誰でも履行できるし、さらに不動産を購入するほどの余裕のある新所有者が賃借人に対して義務を履行する方が、賃借人としても安心できるから、本件の場合の「契約上の地位の移転」は、三面契約でなくてもよいとしたのである。
したがって、新旧所有者間の契約で「契約上の地位の移転」はすることができないとする本肢は妥当でない。
「三面契約ではない契約上の地位の移転」というと難しい問題のように感じられが、本判例は、実際の場面でよく見られる。アパートやマンションを借りているときに「いきなり(つまり賃借人である自分の同意なしに)」大家さんが変わったり、あるいは不動産を購入しようとしたところ物件の現況が「賃借中」の「賃借人付き物件」(いわゆるオーナーチェンジ物件)であった場合などである。このとき、賃貸関係という契約上の地位の移転が新旧所有者の合意だけで起こり、賃借人の同意は不要なのである。