平成28年-問27 民法 総則
Lv3
問題 更新:2023-01-30 17:40:50
AのBに対する甲債権につき消滅時効が完成した場合における時効の援用権者に関する次のア~オの記述のうち、民法の規定および判例に照らし、誤っているものの組合せはどれか。
ア.Aが甲債権の担保としてC所有の不動産に抵当権を有している場合、物上保証人Cは、Aに対して債務を負っていないが、甲債権が消滅すれば同不動産の処分を免れる地位にあるため、甲債権につき消滅時効を援用することができる。
イ.甲債権のために保証人となったDは、甲債権が消滅すればAに対して負っている債務を免れる地位にあるため、甲債権につき消滅時効を援用することができる。
ウ.Bの詐害行為によってB所有の不動産を取得したEは、甲債権が消滅すればAによる詐害行為取消権の行使を免れる地位にあるが、このような利益は反射的なものにすぎないため、甲債権につき消滅時効を援用することができない。
エ.Aが甲債権の担保としてB所有の不動産に抵当権を有している場合、Aの後順位抵当権者Fは、Aの抵当権の被担保債権の消滅により直接利益を受ける者に該当しないため、甲債権につき消滅時効を援用することができない。
オ.Aが甲債権の担保としてB所有の不動産に抵当権を有している場合、同不動産をBから取得したGは、甲債権が消滅すれば抵当権の負担を免れる地位にあるが、このような利益は反射的なものにすぎないため、甲債権につき消滅時効を援用することができない。
- ア・イ
- ア・エ
- イ・オ
- ウ・エ
- ウ・オ
正解 5
解説
消滅時効の援用権者についての問題である。
民法によると、「債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。権利を行使することができる時から10年間(人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権は20年間)行使しないときは、消滅する」(民法166条、民法167条)とされている。
「債権は・・・消滅する」とあるのだから、時の経過のみによって債権が消滅するという法的効果が得られそうに思える。
しかし民法は、「時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない」(民法145条)とも規定しており、当事者の援用があって初めて権利の得喪が生じると解されている。
Aが甲債権の担保としてC所有の不動産に抵当権を有している場合、物上保証人Cは、Aに対して債務を負っていないが、甲債権が消滅すれば同不動産の処分を免れる地位にあるため、甲債権につき消滅時効を援用することができる。 ア.正しい。
自らの不動産に抵当権を負担している物上保証人は、消滅時効の援用権者である。
被担保債権(甲債権)が消滅すれば、附従性で抵当権が消滅し、抵当権の負担から解放され、直接に利益を受ける者だからである。
甲債権のために保証人となったDは、甲債権が消滅すればAに対して負っている債務を免れる地位にあるため、甲債権につき消滅時効を援用することができる。 イ.正しい。
保証人は、消滅時効の援用権者である。
被担保債権(甲債権)が消滅すれば、附従性で保証債務から解放され、直接に利益を受ける者だからである。
Bの詐害行為によってB所有の不動産を取得したEは、甲債権が消滅すればAによる詐害行為取消権の行使を免れる地位にあるが、このような利益は反射的なものにすぎないため、甲債権につき消滅時効を援用することができない。 ウ.誤り。
受益者Eが被保全債権にあたる甲債権につき消滅時効を援用することができないとしている本肢は誤り。
詐害行為取消権(民法424条)を行使するための要件として、「被保全債権の存在」があるため、被保全債権(甲債権)がなくなれば受益者Eは、詐害行為取消権の行使をうけずに済むことになる。
詐害行為取消権を行使されうる受益者が、詐害行為取消権の被保全債権について消滅時効を援用できるかについて判例は、詐害行為取消権を行使する債権者の被保全債権が消滅すれば受益者は利益喪失を免れることができる地位にあるから、受益者は被保全債権の消滅によって直接利益を受ける者にあたり、この債権について消滅時効を援用することができるものと解するのが相当としている(最判平成10年6月22日)。
Aが甲債権の担保としてB所有の不動産に抵当権を有している場合、Aの後順位抵当権者Fは、Aの抵当権の被担保債権の消滅により直接利益を受ける者に該当しないため、甲債権につき消滅時効を援用することができない。 エ.正しい。
先順位抵当権が消滅した場合、後順位抵当権の順位が上昇する。これを、順位上昇の原則という。
先順位抵当権が消えることで順位上昇の期待を有する後順位抵当権者が、先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用できるかについて判例は、後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権の消滅時効の援用はできないとしている(最判平成11年10月21日)。
つまり後順位抵当権者が受ける利益は、直接の利益ではなく、間接的(反射的利益)に留まるとするものである。
Aが甲債権の担保としてB所有の不動産に抵当権を有している場合、同不動産をBから取得したGは、甲債権が消滅すれば抵当権の負担を免れる地位にあるが、このような利益は反射的なものにすぎないため、甲債権につき消滅時効を援用することができない。 オ.誤り。
第三取得者Gが甲債権の消滅時効を援用できないとする本肢は誤りである。
抵当権が付着した不動産の第三取得者は、消滅時効の援用権者である。
抵当権の被担保債権(甲債権)が消滅すれば、附従性で抵当権が消滅し、抵当権の負担から解放され、直接に利益を受ける者だからである。