平成30年-問35 民法 親族
Lv3
問題 更新:2023-01-30 14:52:08
後見に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
- 未成年後見は、未成年者に対して親権を行う者がないときに限り、開始する。
- 未成年後見人は自然人でなければならず、家庭裁判所は法人を未成年後見人に選任することはできない。
- 成年後見は、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者について、家庭裁判所の審判によって開始する。
- 成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護および財産管理に関する事務を行う義務のほか、成年被後見人が他人に損害を加えた場合において当然に法定の監督義務者として責任を負う。
- 後見人の配偶者、直系血族および兄弟姉妹は、後見監督人となることができない。
正解 5
解説
後見制度とは、親権者のいない未成年者又は精神上の障害(知的障害、精神障害、認知症など)により判断能力が欠けているのは通常の状態にある人が後見開始の審判を受けた者に対してその身上や財産の保護をおこなう制度である。
未成年後見は、未成年者に対して親権を行う者がないときに限り、開始する。 1.妥当でない。
親権を行う者がないときに限り、後見が開始するわけではない。
未成年後見は、「未成年者に対して親権を行う者がないとき、又は親権を行う者が管理権を有しないとき」に開始する(民法838条1号)。
「親権を行う者がないとき」とは、一般的には、親権者の全員が死亡した場合、失踪宣告を受けた場合、親権喪失の審判を受けた場合、親権停止の審判を受けた場合、辞任した場合などのように、親権者となる者全員が法律上存在しなくなる場合を指す。
また親権とは、子の利益のために子の監護及び教育をし、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する権利や義務を指し、親権を持っていても家庭裁判所によって管理権を喪失する場合がある。
未成年後見人は自然人でなければならず、家庭裁判所は法人を未成年後見人に選任することはできない。 2.妥当でない。
未成年後見人の選任は、自然人に限らず法人も選任することができる。
未成年被後見人の年齢、心身の状態並びに生活及び財産の状況、未成年後見人となる者の職業及び経歴並びに未成年被後見人との利害関係の有無(未成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と未成年被後見人との利害関係の有無)、未成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない(民法840条3項)。
なお、未成年後見人を選任するのに人数制限はなく、何人でも選任できる。
また、成年後見人を選任する場合にも、自然人に限らず法人も選任することができる。
成年後見は、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者について、家庭裁判所の審判によって開始する。 3.妥当でない。
「事理を弁識する能力が著しく不十分である者」という点が妥当でない。
正しくは「弁識する能力を欠く常況にある者」である。
精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる(民法7条)。
なお、本肢の「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」とは、保佐開始の審判要件である。
成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護および財産管理に関する事務を行う義務のほか、成年被後見人が他人に損害を加えた場合において当然に法定の監督義務者として責任を負う。 4.妥当でない。
後半について、成年被後見人が第三者に損害を負わせ、成年被後見人が責任無能力者の場合、原則として成年後見人が賠償責任を負うことになるが、当然に法定の監督義務者として責任を負うわけではない。
判例は「成年後見人が、成年被後見人に対して身上配慮義務があることから直ちに法定の監督義務者には該当しない(最判平成28年3月1日)」としている。
なお、前半は正しい。
成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うにあたっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない(民法858条)。
後見人の配偶者、直系血族および兄弟姉妹は、後見監督人となることができない。 5.妥当である。
後見監督人の欠格事由については、「後見人の配偶者、直系血族及び兄弟姉妹は、後見監督人となることができない」としている(民法850条)。
後見監督人の職務は、「後見人の事務を監督すること、後見人が欠けた場合に、遅滞なくその選任を家庭裁判所に請求すること、急迫の事情がある場合に、必要な処分をすること、後見人又はその代表する者と被後見人との利益が相反する行為について被後見人を代表すること」とされている(民法851条)。
後見人に近しい者が後見監督人であると、被後見人にとって不利益が生じる行為も公平に判断ができないおそれが生じる可能性があることから、このように禁じられている。