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  4. 問8

令和3年-問8 行政法 行政総論

Lv3

問題 更新:2023-11-20 17:02:51

法の一般原則に関わる最高裁判所の判決に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。

  1. 地方公共団体が、将来にわたって継続すべき一定内容の施策を決定した場合、その後社会情勢が変動したとしても、当該施策を変更することは住民や関係者の信頼保護の観点から許されないから、当該施策の変更は、当事者間に形成された信頼関係を不当に破壊するものとして、それにより損害を被る者との関係においては、違法となる。
  2. 租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、租税法規に適合する課税処分について、法の一般原則である信義則の法理の適用がなされることはなく、租税法規の適用における納税者の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合であっても、課税処分が信義則の法理に反するものとして違法となることはない。
  3. 法の一般原則として権利濫用の禁止が行政上の法律関係において例外的に適用されることがあるとしても、その適用は慎重であるべきであるから、町からの申請に基づき知事がなした児童遊園設置認可処分が行政権の著しい濫用によるものであっても、それが、地域環境を守るという公益上の要請から生じたものである場合には、当該処分が違法とされることはない。
  4. 地方自治法により、金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利につきその時効消滅については援用を要しないとされているのは、当該権利の性質上、法令に従い適正かつ画一的にこれを処理することが地方公共団体の事務処理上の便宜および住民の平等的取扱の理念に資するものであり、当該権利について時効援用の制度を適用する必要がないと判断されたことによるものと解されるから、普通地方公共団体に対する債権に関する消滅時効の主張が信義則に反し許されないとされる場合は、極めて限定されるものというべきである。
  5. 国家公務員の雇傭関係は、私人間の関係とは異なる特別の法律関係において結ばれるものであり、国には、公務の管理にあたって公務員の生命および健康等を危険から保護するよう配慮する義務が認められるとしても、それは一般的かつ抽象的なものにとどまるものであって、国家公務員の公務上の死亡について、国は、法律に規定された補償等の支給を行うことで足り、それ以上に、上記の配慮義務違反に基づく損害賠償義務を負うことはない。
  解答&解説

正解 4

解説

地方公共団体が、将来にわたって継続すべき一定内容の施策を決定した場合、その後社会情勢が変動したとしても、当該施策を変更することは住民や関係者の信頼保護の観点から許されないから、当該施策の変更は、当事者間に形成された信頼関係を不当に破壊するものとして、それにより損害を被る者との関係においては、違法となる。 1.妥当でない

「その後社会情勢が変動したとしても、当該施策を変更することは住民や関係者の信頼保護の観点から許されないから、当該施策の変更は、当事者間に形成された信頼関係を不当に破壊するものとして、それにより損害を被る者との関係においては、違法となる」は、判示の趣旨ではないので誤りである。

地方公共団体が一定内容の継続的な施策を決定し、特定の者に対し右施策に適合する特定内容の活動を促す個別的具体的な勧告ないし勧誘をしたのち右施策を変更する場合と、右特定の者に対する地方公共団体の不法行為責任及び村が特定の工場の誘致を決定したのち新たに就任した村長において工場建設に対する協力を拒否する方針をとり、これによって工場を設置しようとした者に損害を与えることが違法な加害行為にあたるものとされた事例である。
判例は、「地方公共団体のような行政主体が一定内容の将来にわたって継続すべき施策を決定した場合でも、右施策が社会情勢の変動等に伴って変更されることがあることはもとより当然であって、地方公共団体は原則として右決定に拘束されるものではない」としている(最判昭和56年1月27日)。

本判例は、「施策が変更されることにより、前記の勧告等に動機づけられて前記のような活動に入った者がその信頼に反して所期の活動を妨げられ、社会観念上看過することのできない程度の積極的損害を被る場合に、地方公共団体において右損害を補償するなどの代償的措置を講ずることなく施策を変更することは、それがやむをえない客観的事情によるのでない限り、当事者間に形成された信頼関係を不当に破壊するものとして違法性を帯び、地方公共団体の不法行為責任を生ぜしめるものといわなければならない」として、一度なされた決定を変更すること自体を否定するのではなく、代償的措置を講ずれば、一度なされた決定を変更できるという趣旨である。

租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、租税法規に適合する課税処分について、法の一般原則である信義則の法理の適用がなされることはなく、租税法規の適用における納税者の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合であっても、課税処分が信義則の法理に反するものとして違法となることはない。 2.妥当でない

「租税法規に適合する課税処分について、法の一般原則である信義則の法理の適用がなされることはなく」とあり、また「租税法規の適用における納税者の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合であっても、課税処分が信義則の法理に反するものとして違法となることはない」とあり、誤りである。

判例は、「租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により、右課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、法律による行政の原理なかんずく租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、右法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて右法理の適用の是非を考えるべきものである。」としている(最判昭和62年10月30日)。

法の一般原則として権利濫用の禁止が行政上の法律関係において例外的に適用されることがあるとしても、その適用は慎重であるべきであるから、町からの申請に基づき知事がなした児童遊園設置認可処分が行政権の著しい濫用によるものであっても、それが、地域環境を守るという公益上の要請から生じたものである場合には、当該処分が違法とされることはない。 3.妥当でない

「法の一般原則として権利濫用の禁止が行政上の法律関係において例外的に適用されることがある」並びに「行政権の著しい濫用がありよるものであっても、それが、地域環境を守るという公益上の要請から生じたものである場合には、当該処分が違法とされることはない」は、誤りである。

知事の児童遊園設置認可処分が行政権の濫用に相当する違法性を帯びているとして個室付浴場業(いわゆるトルコぶろ営業)を規制しうる効力がないとされた事例である。
判例は、「児童遊園は、児童に健全な遊びを与えてその健康を増進し、情操をゆたかにすることを目的とする施設なのであるから、児童遊園設置の認可申請、同認可処分もその趣旨に沿ってなされるべきものであって、風俗営業の規制を主たる動機、目的とする児童遊園設置の認可申請を容れた本件認可処分は、行政権の濫用に相当する違法性があり、風俗営業を規制しうる効力を有しない」としている(最判昭和53年6月16日)。 行政法における権利濫用の禁止を適用した判例である。権利濫用の禁止も信義誠実の原則と同様に、民法1条3項「権利の濫用は、これを許さない」に由来し、当該規定が、私法の一般原則のみならず、行政上の法律関係についても適用される。

地方自治法により、金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利につきその時効消滅については援用を要しないとされているのは、当該権利の性質上、法令に従い適正かつ画一的にこれを処理することが地方公共団体の事務処理上の便宜および住民の平等的取扱の理念に資するものであり、当該権利について時効援用の制度を適用する必要がないと判断されたことによるものと解されるから、普通地方公共団体に対する債権に関する消滅時効の主張が信義則に反し許されないとされる場合は、極めて限定されるものというべきである。 4.妥当である

原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律等に基づき健康管理手当の支給認定を受けた被爆者が、外国へ出国したことに伴いその支給を打ち切られたため未支給の健康管理手当の支払を求める訴訟において、支給義務者が地方自治法236条所定の消滅時効を主張することが信義則に反し許されないとされた事例である。
判例は、「地方自治法236条2項が上記権利の時効消滅につき当該普通地方公共団体による援用を要しないこととしたのは、上記権利については、その性質上、法令に従い適正かつ画一的にこれを処理することが、当該普通地方公共団体の事務処理上の便宜及び住民の平等的取扱いの理念(地方自治法10条2項)に資することから、時効援用の制度(民法145条)を適用する必要がないと判断されたことによるものと解される。このような趣旨にかんがみると、普通地方公共団体に対する債権に関する消滅時効の主張が信義則に反し許されないとされる場合は、極めて限定されるものというべきである」としている(最判平成19年2月6日)。

地方自治法236条2項
金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利の時効による消滅については、法律に特別の定めがある場合を除くほか、時効の援用を要せず、また、その利益を放棄することができないものとする。普通地方公共団体に対する権利で、金銭の給付を目的とするものについても、また同様とする。
地方自治法10条2項
住民は、法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し、その負担を分任する義務を負う。

国家公務員の雇傭関係は、私人間の関係とは異なる特別の法律関係において結ばれるものであり、国には、公務の管理にあたって公務員の生命および健康等を危険から保護するよう配慮する義務が認められるとしても、それは一般的かつ抽象的なものにとどまるものであって、国家公務員の公務上の死亡について、国は、法律に規定された補償等の支給を行うことで足り、それ以上に、上記の配慮義務違反に基づく損害賠償義務を負うことはない。 5.妥当でない

「国家公務員の公務上の死亡について、国は、法律に規定された補償等の支給を行うことで足り、それ以上に、上記の配慮義務違反に基づく損害賠償義務を負うことはない」のは誤りである。

本肢は、最判昭和50年2月25日の事案である。
自動車整備作業中に車両に轢かれて死亡した自衛隊員Aの遺族が原告となって、自賠法3条に基づいて国を訴えた事件であるが、第一審は、事故発生から3年以上経過しており、時効が完成していることを理由に請求は棄却された。
そこで、原告は第二審で、Aと被告国との雇用関係に着目し、安全配慮義務違反である旨の主張を追加した。
これは、本事故を不法行為債権(時効3年)ではなく、雇用契約上の債務不履行として構成することによって時効の壁の回避を狙ったものであるが、第二審は、特別権力関係の理論により、国に債務不履行責任はないと判断し、控訴を棄却した。
これに対し、最高裁は「安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものであって、国と公務員との間においても別異に解すべき論拠はなく、公務員が前記の義務を安んじて誠実に履行するためには、国が、公務員に対し安全配慮義務を負い、これを尽くすことが必要不可欠である」とした上で、原告が主張した構成を認めて、控訴審判決を破棄して差し戻した(最判昭和50年2月25日)。

なお、「特別権力関係の理論」とは、公権力と特殊な関係にある者は(在監者や公務員など)、特別な人権制限が許され(=法治主義の原則は廃除される)、その内部の行為は原則として司法審査の対象にならないという理論で、旧憲法では通説的な考え方であったが、現在の憲法における「法の支配」「基本的人権の尊重」などの下では、妥当しえないとの批判を受け、過去の理論として扱われつつある。

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