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令和3年-問27 民法 総則

Lv2

問題 更新:2023-01-27 20:58:22

意思表示に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。

  1. 意思表示の相手方が、正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は通常到達すべきであった時に到達したものとみなされ、相手方が通知の受領を拒絶した場合には意思表示の到達が擬制される。これに対して、意思表示を通知する内容証明郵便が不在配達されたが、受取人が不在配達通知に対応しないまま留置期間が経過して差出人に還付され、通知が受領されなかった場合には、意思表示が到達したものと認められることはない。
  2. 契約の取消しの意思表示をしようとする者が、相手方の所在を知ることができない場合、公示の方法によって行うことができる。この場合、当該取消しの意思表示は、最後に官報に掲載した日またはその掲載に代わる掲示を始めた日から2週間を経過した時に相手方に到達したものとみなされるが、表意者に相手方の所在を知らないことについて過失があった場合には到達の効力は生じない。
  3. 契約の申込みの意思表示に対して承諾の意思表示が郵送でなされた場合、当該意思表示が相手方に到達しなければ意思表示が完成せず契約が成立しないとすると取引の迅速性が損なわれることになるから、当該承諾の意思表示が発信された時点で契約が成立する。
  4. 意思表示は、表意者が通知を発した後に制限行為能力者となった場合でもその影響を受けないが、契約の申込者が契約の申込み後に制限行為能力者となった場合において、契約の相手方がその事実を知りつつ承諾の通知を発したときには、当該制限行為能力者は契約を取り消すことができる。
  5. 意思表示の相手方が、その意思表示を受けた時に意思能力を有しなかったとき、または制限行為能力者であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。
  解答&解説

正解 2

解説

意思表示の相手方が、正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は通常到達すべきであった時に到達したものとみなされ、相手方が通知の受領を拒絶した場合には意思表示の到達が擬制される。これに対して、意思表示を通知する内容証明郵便が不在配達されたが、受取人が不在配達通知に対応しないまま留置期間が経過して差出人に還付され、通知が受領されなかった場合には、意思表示が到達したものと認められることはない。 1.妥当でない

前半部分は、相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす(民法97条2項)ので正しい。
しかし、後半部分の「受取人が不在配達通知に対応しないまま留置期間が経過して差出人に還付され、通知が受領されなかった場合には、意思表示が到達したものと認められることはない」としている点が妥当でない。

後半部分は判例の事案で、「被上告人は、不在配達通知書の記載により、小川弁護士から書留郵便(本件内容証明郵便)が送付されたことを知り、その内容が本件遺産分割に関するものではないかと推測していたというのであり、さらに、この間弁護士を訪れて遺留分減殺について説明を受けていた等の事情が存する」場合に、意思表示を通知する内容証明郵便が不在配達されたが、受取人が不在配達通知に対応しないまま留置期間が経過して差出人に還付され、通知が受領されなかった場合において、意思表示が到達したものといえるか否かを争った事例である。

「被上告人としては、本件内容証明郵便の内容が遺留分減殺の意思表示又は少なくともこれを含む遺産分割協議の申入れであることを十分に推知することができたというべきである。また、被上告人は、本件当時、長期間の不在、その他郵便物を受領し得ない客観的状況にあったものではなく、その主張するように仕事で多忙であったとしても、受領の意思があれば、郵便物の受取方法を指定することによって、さしたる労力、困難を伴うことなく本件内容証明郵便を受領することができたものということができる。
そうすると、本件内容証明郵便の内容である遺留分減殺の意思表示は、社会通念上、被上告人の了知可能な状態に置かれ、遅くとも留置期間が満了した時点で被上告人に到達したものと認めるのが相当である(最判平成10年6月11日)。」

なお、意思表示の原則は、到達主義である。
ここでいう到達とは、意思表示を記載した書面が相手方によって直接受領され、又は了知されることを要するものなく、これが相手方の了知可能な状態に置かれることをもって足りるものと解される(最判昭和36年4月20日))。

契約の取消しの意思表示をしようとする者が、相手方の所在を知ることができない場合、公示の方法によって行うことができる。この場合、当該取消しの意思表示は、最後に官報に掲載した日またはその掲載に代わる掲示を始めた日から2週間を経過した時に相手方に到達したものとみなされるが、表意者に相手方の所在を知らないことについて過失があった場合には到達の効力は生じない。 2.妥当である

意思表示は、表意者が相手方を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、公示の方法によってすることができる(民法98条1項)。
そして、公示による意思表示は、最後に官報に掲載した日又はその掲載に代わる掲示を始めた日から2週間を経過した時に、相手方に到達したものとみなす。ただし、表意者が相手方を知らないこと又はその所在を知らないことについて過失があったときは、到達の効力を生じない(民法98条3項)。

契約の申込みの意思表示に対して承諾の意思表示が郵送でなされた場合、当該意思表示が相手方に到達しなければ意思表示が完成せず契約が成立しないとすると取引の迅速性が損なわれることになるから、当該承諾の意思表示が発信された時点で契約が成立する。 3.妥当でない

当該承諾の意思表示が発信された時点で契約が成立するとしているため妥当でない。

意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる(民法97条1項)。
2020年改正前の民法では、契約の申込みの意思表示に対して承諾の意思表示が郵送でなされた場合(隔地者間の契約)、承諾の通知を発信したときに成立すると規定されていたが(旧民法526条1項)、改正により、例外規定であった発信主義の条文は削除されている。

意思表示の原則については肢1解説参照。

意思表示は、表意者が通知を発した後に制限行為能力者となった場合でもその影響を受けないが、契約の申込者が契約の申込み後に制限行為能力者となった場合において、契約の相手方がその事実を知りつつ承諾の通知を発したときには、当該制限行為能力者は契約を取り消すことができる。 4.妥当でない

当該制限行為能力者は契約を取り消すことができるとしているため妥当ではない。

意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない(民法97条3項)。
申込者が申込みの通知を発した後に死亡し、意思能力を有しない常況にある者となり、又は行為能力の制限を受けた場合において、申込者がその事実が生じたとすればその申込みは効力を有しない旨の意思を表示していたとき、又はその相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったときは、その申込みは、その効力を有しない(民法526条)。
表意者が、意思表示後に、死亡または制限行為能力者になってしまった場合には、原則として民法97条3項が適応され、例外の規定が民法526条である。
民法526条は、申込みの効力の失効を規定しているのであり、契約の相手方がその事実を知った時点で、申し込みの効力は失効するため、契約自体が成立しなくなる。そのため制限行為能力者からの取り消しの問題ではない。

意思表示の相手方が、その意思表示を受けた時に意思能力を有しなかったとき、または制限行為能力者であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。 5.妥当でない

「制限行為能力者であったときは」という場合は、成年被後見人だけでなく、被保佐人と被補助人も該当するため妥当でない。

意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に意思能力を有しなかったとき又は未成年者若しくは成年被後見人であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができない(民法98条の2)。

民法98条の2は、意思能力を有しない者、未成年者、成年被後見人に適用される条文である。この場合、被保佐人や被補助人は該当しない。

なお、意思表示の相手方が、意思能力を有しない者、未成年者、成年被後見人であっても、対抗することができる場合として、以下のものがあげられる(民法98条の2ただし書き)。

①相手方の法定代理人がその意思表示を知った後
②意思能力を回復した時
③行為能力者となった時

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