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令和3年-問31 民法 債権

Lv3

問題 更新:2023-11-20 17:15:40

AとBは、令和3年7月1日にAが所有する絵画をBに1000万円で売却する売買契約を締結した。同契約では、目的物は契約当日引き渡すこと、代金はその半額を目的物と引き換えに現金で、残金は後日、銀行振込の方法で支払うこと等が約定され、Bは、契約当日、約定通りに500万円をAに支払った。この契約に関する次のア~オのうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものの組合せはどれか。

ア.残代金の支払期限が令和3年10月1日と定められていたところ、Bは正当な理由なく残代金500万円の支払いをしないまま2ヵ月が徒過した。この場合、Aは、Bに対して、2ヵ月分の遅延損害金について損害の証明をしなくとも請求することができる。

イ.残代金の支払期限が令和3年10月1日と定められていたところ、Bは正当な理由なく残代金500万円の支払いをしないまま2ヵ月が徒過した場合、Aは、Bに対して、遅延損害金のほか弁護士費用その他取立てに要した費用等を債務不履行による損害の賠償として請求することができる。

ウ.残代金の支払期限が令和3年10月1日と定められていたところ、Bは残代金500万円の支払いをしないまま2ヵ月が徒過した。Bは支払いの準備をしていたが、同年9月30日に発生した大規模災害の影響で振込システムに障害が発生して振込ができなくなった場合、Aは、Bに対して残代金500万円に加えて2ヵ月分の遅延損害金を請求することができる。

エ.Aの母の葬儀費用にあてられるため、残代金の支払期限が「母の死亡日」と定められていたところ、令和3年10月1日にAの母が死亡した。BがAの母の死亡の事実を知らないまま2ヵ月が徒過した場合、Aは、Bに対して、残代金500万円に加えて2ヵ月分の遅延損害金を請求することができる。

オ.残代金の支払期限について特段の定めがなかったところ、令和3年10月1日にAがBに対して残代金の支払いを請求した。Bが正当な理由なく残代金の支払いをしないまま2ヵ月が徒過した場合、Aは、Bに対して、残代金500万円に加えて2ヵ月分の遅延損害金を請求することができる。

  1. ア・イ
  2. ア・オ
  3. イ・エ
  4. ウ・エ
  5. ウ・オ
  解答&解説

正解 3

解説

イ、エが妥当でない。

残代金の支払期限が令和3年10月1日と定められていたところ、Bは正当な理由なく残代金500万円の支払いをしないまま2ヵ月が徒過した。この場合、Aは、Bに対して、2ヵ月分の遅延損害金について損害の証明をしなくとも請求することができる。 ア.妥当である

金銭債務の債務不履行による損害賠償の額は、約定利率がなければ法定利率となり(民法419条1項)、債権者は、この損害の証明をすることを要しない(民法419条2項)。

したがって、債権者Aは、2ヵ月分の遅延損害金について損害の証明をしなくとも請求することができる。

残代金の支払期限が令和3年10月1日と定められていたところ、Bは正当な理由なく残代金500万円の支払いをしないまま2ヵ月が徒過した場合、Aは、Bに対して、遅延損害金のほか弁護士費用その他取立てに要した費用等を債務不履行による損害の賠償として請求することができる。 イ.妥当でない

判例によれば、債権者Aは金銭債務の不履行による損害賠償として債務者Bに対し弁護士費用その他の取立費用を請求することはできない。

「民法419条によれば、金銭を目的とする債務の履行遅滞による損害賠償の額は、法律に別段の定めがある場合を除き、約定または法定の利率により、債権者はその損害の証明をする必要がないとされているが、その反面として、たとえそれ以上の損害が生じたことを立証しても、その賠償を請求することはできないものというべく、したがって、債権者は、金銭債務の不履行による損害賠償として、債務者に対し弁護士費用その他の取立費用を請求することはできないと解するのが相当である(最判昭和48年10月11日)。」

残代金の支払期限が令和3年10月1日と定められていたところ、Bは残代金500万円の支払いをしないまま2ヵ月が徒過した。Bは支払いの準備をしていたが、同年9月30日に発生した大規模災害の影響で振込システムに障害が発生して振込ができなくなった場合、Aは、Bに対して残代金500万円に加えて2ヵ月分の遅延損害金を請求することができる。 ウ.妥当である

金銭債務の債務不履行による損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない(民法419条3項)。

金銭債権の債務不履行時に、債務者Bが不可抗力(天災、大規模災害等)の抗弁(言い訳)をすることができるかについては、民法419条3項により、不可抗力の抗弁権が封殺されている。
そのため、大規模災害の影響で振込システムに障害が発生して振込ができなかったとしても、債権者Aは、債務者Bに対して残代金500万円に加えて2ヵ月分の遅延損害金を請求することができる。

Aの母の葬儀費用にあてられるため、残代金の支払期限が「母の死亡日」と定められていたところ、令和3年10月1日にAの母が死亡した。BがAの母の死亡の事実を知らないまま2ヵ月が徒過した場合、Aは、Bに対して、残代金500万円に加えて2ヵ月分の遅延損害金を請求することができる。 エ.妥当でない

条文によると、債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負うとされている(民法412条2項)。
しかしBは、Aの母の死亡の事実を知らないまま2ヵ月が徒過しており、また、問題文からはAから残代金支払いの請求をされた様子がないので、Aは、Bに対して、残代金500万円に加えて2ヵ月分の遅延損害金を請求することはできない。

不確定期限とは、必ず起きるが、それがいつ起こるか不明であるということである。
問題文にある「母の死亡日」は、不確定期限の典型であり、人は必ず亡くなるが、それがいつになるのかわからないため、不確定期限となる。不確定期限の遅滞責任は、条文上、①期限の到来した後に履行の請求を受けた時②期限の到来したことを知った時、①または②の早い時からである。
BがAの母の死亡の事実を知らないまま2ヵ月が徒過しており、また問題文から①も読み取れない。すなわち、債務の履行遅滞責任は発生していない。

その他の消滅時効及び遅延開始の起算点については民法テキスト2を参照。

残代金の支払期限について特段の定めがなかったところ、令和3年10月1日にAがBに対して残代金の支払いを請求した。Bが正当な理由なく残代金の支払いをしないまま2ヵ月が徒過した場合、Aは、Bに対して、残代金500万円に加えて2ヵ月分の遅延損害金を請求することができる。 オ.妥当である

条文によると、債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負うとされている(民法412条3項)。

したがって、令和3年10月1日にAがBに対して残代金の支払いを請求しているため、Bが正当な理由なく残代金の支払いをしないまま2ヵ月が徒過した場合には、Aは、Bに対して、残代金500万円に加えて2ヵ月分の遅延損害金を請求することができる。

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