令和4年-問30 民法 債権
Lv3
問題 更新:2023-01-17 10:34:51
Aは、BにCから贈与を受けた動産甲を売却する旨の契約(以下「本件契約」という。)をBと締結したが、引渡し期日が過ぎても動産甲の引渡しは行われていない。この場合についての次の記述のうち、民法の規定に照らし、正しいものはどれか。
- 本件契約に「Cが亡くなった後に引き渡す」旨が定められていた場合、Cの死亡後にBから履行請求があったとしても、Aが実際にCの死亡を知るまではAの履行遅滞の責任は生じない。
- 動産甲が、契約締結前に生じた自然災害により滅失していたために引渡しが不能である場合、本件契約は、その成立の時に不能であるから、Aは、Bに履行の不能によって生じた損害を賠償する責任を負わない。
- 動産甲の引渡しについて、Aが履行補助者であるDを用いた場合、Dの過失により甲が滅失し引渡しができないときには、Aに当然に債務不履行責任が認められる。
- 動産甲が本件契約締結後引渡しまでの間にA・B双方責めに帰すことができない事由によって滅失したときは、Aの引渡し債務は不能により消滅するが、Bの代金債務は消滅しないから、Bは、Aからの代金支払請求に応じなければならない。
- Aが本件契約に基づき動産甲をBのもとに持参して引き渡そうとしたが、Bがその受領を拒んだ場合、その後にA・B双方の責めに帰すことができない事由によって甲が滅失したときは、Bは、本件契約の解除をすることも、Aからの代金支払請求を拒絶することもできない。
正解 5
解説
本件契約に「Cが亡くなった後に引き渡す」旨が定められていた場合、Cの死亡後にBから履行請求があったとしても、Aが実際にCの死亡を知るまではAの履行遅滞の責任は生じない。 1.誤り
Cの死亡後にBから履行請求があるため、Aの履行遅滞の責任は生じる。
債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う(民法412条2項)。
不確定期限とは、必ず起きるが、それがいつ起こるか不明であるということである。
「Cが亡くなった後に引き渡す」というのは、人は必ず亡くなるが、それがいつになるのかわからないため、不確定期限となる。
不確定期限の遅滞責任は、条文上、①期限の到来した後に履行の請求を受けた時②期限の到来したことを知った時、①または②の早い時からである。
Aが実際にCの死亡を知らなかったとしても、Bから履行請求があったのであれば①の要件があてはまり、履行遅滞の責任は生じる。
動産甲が、契約締結前に生じた自然災害により滅失していたために引渡しが不能である場合、本件契約は、その成立の時に不能であるから、Aは、Bに履行の不能によって生じた損害を賠償する責任を負わない。 2.誤り
本件契約において、その成立の時に引渡しが不能であっても、Aは、Bに履行の不能によって生じた損害を賠償する責任を負う。
債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない(民法412条の2)が、契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、その履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない(民法412条の2第2項、民法415条)。
原始的不能を理由として契約は無効にならないが、現実問題として履行は不能であるから、債権者は債務者に対して履行請求をすることができない。よって、債権者は損害賠償請求をすることで解決を図ることになる。
動産甲の引渡しについて、Aが履行補助者であるDを用いた場合、Dの過失により甲が滅失し引渡しができないときには、Aに当然に債務不履行責任が認められる。 3.誤り
Aに「当然に」債務不履行責任が認められるわけではない。
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。
ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない(民法415条1項)。
履行補助者の過失による甲の引渡不能については、Aに当然に債務不履行責任が認められるわけではなく、履行補助者の行為をどのように組み込むか、または履行補助者の行為をどのように評価をするのか、といった観点より評価を行い、それにより結論が異なる。
すわなち、Aに債務不履行責任が認められるケースと、責任が否定されるケースがある。
よって、動産甲の引渡しについて、Aが履行補助者であるDを用いた場合、Dの過失により甲が滅失し引渡しができないときには、Aに当然に債務不履行責任が認められるわけではない。
動産甲が本件契約締結後引渡しまでの間にA・B双方責めに帰すことができない事由によって滅失したときは、Aの引渡し債務は不能により消滅するが、Bの代金債務は消滅しないから、Bは、Aからの代金支払請求に応じなければならない。 4.誤り
Bは、Aからの反対給付である代金支払請求に応じる必要はない。
当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる(民法536条1項)。
Aが本件契約に基づき動産甲をBのもとに持参して引き渡そうとしたが、Bがその受領を拒んだ場合、その後にA・B双方の責めに帰すことができない事由によって甲が滅失したときは、Bは、本件契約の解除をすることも、Aからの代金支払請求を拒絶することもできない。 5.正しい
債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす(民法413条の2第2項)。
債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、契約の解除をすることができない(民法543条)。
そして、債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むこともできない(民法536条2項前段)。
よって、Bは、契約の解除をすることも、反対給付である代金支払請求を拒絶することもできない。