令和6年-問21 行政法 国家賠償法
Lv3
問題 更新:2025-01-10 00:55:54
国家賠償法1条に基づく責任に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当なものはどれか。
- 指定確認検査機関による建築確認に係る建築物について、確認をする権限を有する建築主事が置かれた地方公共団体は、指定確認検査機関が行った当該確認について、国家賠償法1条1項の国または公共団体としての責任を負うことはない。
- 公権力の行使にあたる国または公共団体の公務員が、その職務を行うについて、過失によって違法に他人に損害を加えた場合には、国または公共団体がその被害者に対して賠償責任を負うが、故意または重過失の場合には、公務員個人が被害者に対して直接に賠償責任を負う。
- 国または公共団体の公権力の行使にあたる複数の公務員が、その職務を行うについて、共同して故意によって違法に他人に加えた損害につき、国または公共団体がこれを賠償した場合においては、当該公務員らは、国または公共団体に対し、国家賠償法1条2項による求償債務を負うが、この債務は連帯債務であると解される。
- 国家賠償法1条1項が定める「公務員が、その職務を行うについて」という要件につき、公務員が主観的に権限行使の意思をもってするものではなく、専ら自己の利をはかる意図をもってするような場合には、たとえ客観的に職務執行の外形をそなえる行為をした場合であったとしても、この要件には該当しない。
- 都道府県警察の警察官が、交通犯罪の捜査を行うにつき故意または過失によって違法に他人に損害を加えた場合において、国家賠償法1条1項により当該損害につき賠償責任を負うのは国であり、当該都道府県が賠償責任を負うことはない。
正解 3
解説
指定確認検査機関による建築確認に係る建築物について、確認をする権限を有する建築主事が置かれた地方公共団体は、指定確認検査機関が行った当該確認について、国家賠償法1条1項の国または公共団体としての責任を負うことはない。 1.妥当でない
当該地方公共団体は、国家賠償法1条1項の国または公共団体としての責任を負うことになるので妥当でない。
近頃、民による行政の拡大に伴い、行政事務の民間委託との関係で国家賠償法の適用が争われている事例が増えている。
そして本肢のように指定確認検査機関は民間機関とはいえ、公務員と同様である建築主事と同様に行政とみなされることから判例は、「指定確認検査機関による確認に関する事務は、建築主事による確認に関する事務の場合と同様に、地方公共団体の事務であり、その事務の帰属する行政主体は、当該確認に係る建築物について確認をする権限を有する建築主事が置かれた地方公共団体である」
「したがって、指定確認検査機関の確認に係る建築物について確認をする権限を有する建築主事が置かれた地方公共団体は、指定確認検査機関の当該確認につき行政事件訴訟法21条1項所定の「当該処分または裁決に係る事務の帰属する国または公共団体」にあたる。」
「本件の事情の下においては、本件確認の取消請求を抗告人に対する損害賠償請求に変更することが相当である」としている(最決平成17年6月24日)
公権力の行使にあたる国または公共団体の公務員が、その職務を行うについて、過失によって違法に他人に損害を加えた場合には、国または公共団体がその被害者に対して賠償責任を負うが、故意または重過失の場合には、公務員個人が被害者に対して直接に賠償責任を負う。 2.妥当でない
民法の使用者責任では、使用者と不法行為をした被用者の両方が責任を負うが(不真正連帯債務の関係)、国家賠償請求においては、最高裁判例・通説共に、公務員個人が直接責任を負うものではないとしている。
「公権力の行使にあたる公務員の職務行為にもとづく損害については、国または公共団体が賠償の責に任じ、職務の執行にあたった公務員は、行政機関としての地位においても、個人としても、被害者に対しその責任を負担するものではない」(最判昭和30年4月19日)
国または公共団体の公権力の行使にあたる複数の公務員が、その職務を行うについて、共同して故意によって違法に他人に加えた損害につき、国または公共団体がこれを賠償した場合においては、当該公務員らは、国または公共団体に対し、国家賠償法1条2項による求償債務を負うが、この債務は連帯債務であると解される。 3.妥当である
「国または公共団体の公権力の行使にあたる複数の公務員が、その職務を行うについて、共同して故意によって違法に他人に加えた損害につき、国または公共団体がこれを賠償した場合においては、当該公務員らは、国または公共団体に対し、連帯して国家賠償法1条2項による求償債務を負うものと解すべきである。」
「当該公務員らは、国または公共団体に対する関係においても一体を成すものというべきであり、当該他人に対して支払われた損害賠償金に係る求償債務につき、当該公務員らのうち一部の者が無資力等により弁済することができないとしても、国または公共団体と当該公務員らとの間では、当該公務員らにおいてその危険を負担すべきものとすることが公平の見地から相当であると解されるからである」(最判令和2年7月14日)
国家賠償法1条1項が定める「公務員が、その職務を行うについて」という要件につき、公務員が主観的に権限行使の意思をもってするものではなく、専ら自己の利をはかる意図をもってするような場合には、たとえ客観的に職務執行の外形をそなえる行為をした場合であったとしても、この要件には該当しない。 4.妥当でない
客観的に職務執行の外形を備える行為であれば、「公務員が、その職務を行うについて」という要件に該当する。
本肢は、非番の警察官が制服着用の上、職務質問を装って金品を持ち去ろうとしたところ、被害者に騒がれたのでピストルで射殺した事件である。
「巡査が、もっぱら自己の利をはかる目的で、制服着用の上、警察官の職務執行をよそおい、被害者に対し不審尋問の上、犯罪の証拠物名義でその所持品を預り、しかも連行の途中、これを不法に領得するため所持の拳銃で同人を射殺したときは、国家賠償法1条にいう、公務員がその職務を行うについて違法に他人に損害を加えた場合にあたるものと解すべきである」(最判昭和31年11月30日)
都道府県警察の警察官が、交通犯罪の捜査を行うにつき故意または過失によって違法に他人に損害を加えた場合において、国家賠償法1条1項により当該損害につき賠償責任を負うのは国であり、当該都道府県が賠償責任を負うことはない。 5.妥当でない
「当該損害につき賠償責任を負うのは国であり、当該都道府県が賠償責任を負うことはない」は妥当でない。
「都道府県警察の警察官がいわゆる交通犯罪の捜査を行うにつき故意または過失によって違法に他人に損害を加えた場合において、国家賠償法1条1項によりその損害の賠償の責めに任ずるのは、原則として当該都道府県であり、国は原則としてその責めを負うものではない」(最判昭和54年7月10日)
なお、検察官が自ら行う犯罪の捜査の補助に係るものであるとき(刑訴法193条3項参照)のような例外的な場合は、国が国家賠償責任を負うこともある(最判昭和54年7月10日)。