平成26年-問27 民法 債権
Lv5
問題 更新:2024-01-07 12:18:33
A、B、CおよびDは、共同で事業を営む目的で「X会」という団体を設立した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、誤っているものはどれか。
- X会が権利能力なき社団であり、Aがその代表者である場合、X会の資産として不動産があるときは、その不動産の公示方法として、Aは、A個人の名義で所有権の登記をすることができる。
- X会が民法上の組合である場合、X会の取引上の債務については、X会の組合財産がその債務のための責任財産になるとともに、組合員であるA、B、CおよびDも、各自が損失分担の割合に応じて責任を負う。
- X会が権利能力なき社団である場合、X会の取引上の債務については、その構成員全員に1個の債務として総有的に帰属し、X会の社団財産がその債務のための責任財産になるとともに、構成員であるA、B、CおよびDも各自が連帯して責任を負う。
- X会が民法上の組合である場合、組合員であるA、B、CおよびDは、X会の組合財産につき持分権を有するが、X会が解散して清算が行われる前に組合財産の分割を求めることはできない。
- X会が権利能力なき社団である場合、構成員であるA、B、CおよびDは、全員の同意をもって、総有の廃止その他X会の社団財産の処分に関する定めのなされない限り、X会の社団財産につき持分権を有さず、また、社団財産の分割を求めることができない。
正解 3
解説
広義の共有
広義の共有 | 狭義の共有 | 合有 | 総有 |
---|---|---|---|
具体例 | 不動産を二人で購入するなど、通常の場面 | 組合 | 権利能力なき社団 |
持分 | あり(具体的) | あり(しかし潜在的) | なし |
持分の譲渡 | できる | できない | できない |
分割の請求 | できる | 原則できない | できない |
狭義の共有 | |
---|---|
具体例 | 不動産を二人で購入するなど、通常の場面 |
持分 | あり(具体的) |
持分の譲渡 | できる |
分割の請求 | できる |
合有 | |
---|---|
具体例 | 組合 |
持分 | あり(しかし潜在的) |
持分の譲渡 | できない |
分割の請求 | 原則できない |
総有 | |
---|---|
具体例 | 権利能力なき社団 |
持分 | なし |
持分の譲渡 | できない |
分割の請求 | できない |
X会が権利能力なき社団であり、Aがその代表者である場合、X会の資産として不動産があるときは、その不動産の公示方法として、Aは、A個人の名義で所有権の登記をすることができる。 1.正しい。
権利能力なき社団は「権利能力がない」のだから、当該社団は所有権という権利の帰属主体になれないはずである。
権利能力なき社団が不動産などを購入した場合、その不動産は誰に、どのように帰属するのかについて判例は「権利能力なき社団が不動産を購入した際は、その構成員の総有に属する」としている(最判昭47年6月2日)。
「総有」については前述の表参照。
権利能力なき社団が不動産を購入した際、対抗要件たる登記は権利能力なき社団の所有名義にできないのは当然である(社団の所有ではないため)。これについて判例は、次のように整理している。
× 権利能力なき社団名義
× 「権利能力なき社団の代表者」という、肩書付きの個人名義(最判昭和47年6月2日)
○ 権利能力なき社団の代表者の個人名義(肩書なし)(最判昭和47年6月2日)
○ 権利能力なき社団の代表者以外の者の個人名義(肩書なし)(最判平成6年5月31日)
○ 総構成員の共同所有名義
したがって、代表者A個人の名義で所有権の登記をすることができる。
X会が民法上の組合である場合、X会の取引上の債務については、X会の組合財産がその債務のための責任財産になるとともに、組合員であるA、B、CおよびDも、各自が損失分担の割合に応じて責任を負う。 2.正しい。
組合の債権者は、組合財産についてその権利を行使することができる(民法675条1項)。
また、当事者が損益分配の割合を定めなかったときは、その割合は、各組合員の出資の価額に応じて定めるとされている(民法674条1項)。
これは、組合員はいざというときは「損」の分配を受けるという意味だから、組合員は各自が損失分担の割合に応じて責任を負うのである。
X会が権利能力なき社団である場合、X会の取引上の債務については、その構成員全員に1個の債務として総有的に帰属し、X会の社団財産がその債務のための責任財産になるとともに、構成員であるA、B、CおよびDも各自が連帯して責任を負う。 3.誤り。
権利能力なき社団は権利能力がないのだから、権利義務の帰属主体にはなれない。
では、権利能力なき社団が取引をする際に生じる債務は、誰に、どのように帰属するのかについて判例は、「権利能力なき社団の代表者が社団の名においてした取引上の債務は、その社団の構成員全員に、一個の義務として総有的に帰属するとともに、社団の総有財産だけがその責任財産となり、構成員各自は、取引の相手方に対し、直接には個人的債務ないし責任を負わないと解するのが相当である」としている(最判昭和48年10月9日)。
プラス財産の帰属が構成員の総有なのであるから、マイナス財産も総有的に帰属するとしたのである。たしかに、権利能力なき社団の構成員はプラス財産について持分はなく持分の処分ができないのに対し、社団のマイナス財産については構成員は各自連帯して責任を負うとするのならば、なんともアンバランスな結果となってしまう。
したがって、構成員であるA、B、CおよびDも各自が連帯して責任を負うとする本肢は誤り。
X会が民法上の組合である場合、組合員であるA、B、CおよびDは、X会の組合財産につき持分権を有するが、X会が解散して清算が行われる前に組合財産の分割を求めることはできない。 4.正しい。
組合の場合は構成員に組合財産が合有として帰属している。合有は潜在的には持分権がある。
前述表を参照。
そして、組合員は清算前に組合財産の分割を求めることができない(民法676条3項)。
X会が権利能力なき社団である場合、構成員であるA、B、CおよびDは、全員の同意をもって、総有の廃止その他X会の社団財産の処分に関する定めのなされない限り、X会の社団財産につき持分権を有さず、また、社団財産の分割を求めることができない。 5.正しい。
「権利能力なき社団の財産は、実質的には社団を構成する総社員のいわゆる総有に属するものであるから、総社員の同意をもって、総有の廃止その他当該財産の処分に関する定めのなされない限り、現社員及び元社員は、当然には、当該財産に関し、共有の持分権又は分割請求権を有するものではないと解するのが相当である(最判昭和32年11月14日)」