平成26年-問34 民法 債権
Lv2
問題 更新:2024-01-07 12:22:55
生命侵害等に対する近親者の損害賠償請求権に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
- 他人の不法行為により夫が即死した場合には、その妻は、相続によって夫の逸失利益について損害賠償請求権を行使することはできない。
- 他人の不法行為により夫が死亡した場合には、その妻は、相続によって夫本人の慰謝料請求権を行使できるので、妻には固有の慰謝料請求権は認められていない。
- 他人の不法行為により、夫が慰謝料請求権を行使する意思を表明しないまま死亡した場合には、その妻は、相続によって夫の慰謝料請求権を行使することはできない。
- 他人の不法行為により死亡した被害者の父母、配偶者、子以外の者であっても、被害者との間にそれらの親族と実質的に同視し得る身分関係が存在するため被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた場合には、その者は、加害者に対して直接固有の慰謝料請求をすることができる。
- 他人の不法行為により子が重い傷害を受けたために、当該子が死亡したときにも比肩しうべき精神上の苦痛をその両親が受けた場合でも、被害者本人は生存しており本人に慰謝料請求権が認められるので、両親には固有の慰謝料請求権は認められていない。
正解 4
解説
他人の不法行為により夫が即死した場合には、その妻は、相続によって夫の逸失利益について損害賠償請求権を行使することはできない。 1.妥当でない。
本肢の場面においては、妻は不法行為の損害賠償請求権を行使することができることには異論はないであろう。問題なのは、その損害賠償請求権の発生根拠である。
死亡による財産的損害の損害賠償請求権は、①死者に発生したものが相続人に相続されるのだろうか、②それとも相続人(遺族)固有の損害賠償請求権が発生するのであろうか。①の見解と②の見解で、賠償額に大きな開きがあるであろうことから、損害賠償請求権の発生根拠が論点となる(①としての損害賠償請求権の方が、被害者本人の損害賠償分を含んでいるため、高額になるのが通常である)。
これについて判例は、被害者本人に損害賠償請求権が発生し、その相続人は当該権利を承継するものと解するのを相当とするとした(大判大正15年2月16日)。つまり上記①の見解であるが、このように考えた方が被害者救済に役立つからである。
なお、即死の場合でも結論は変わらない。即死の場合は、「即死」なのだから被害者本人は権利能力を失い、損害賠償請求権が被害者本人のもとで発生することはないと考えることもできよう。しかしながら即死の場合でも、受傷と死亡の間には必ず観念上の時間の間隔は存在するものであり、被害者本人のもとで損害賠償請求権が発生し、それが相続されると考えることができるからである。
他人の不法行為により夫が死亡した場合には、その妻は、相続によって夫本人の慰謝料請求権を行使できるので、妻には固有の慰謝料請求権は認められていない。 2.妥当でない。
他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない(民法711条)。
つまり配偶者固有の慰謝料請求権が認められている。
また、被害者の配偶者が相続によって被害者本人の慰謝料請求権を行使できる場合に配偶者固有の慰謝料請求権が認められなくなるとする判例は見受けられない。
他人の不法行為により、夫が慰謝料請求権を行使する意思を表明しないまま死亡した場合には、その妻は、相続によって夫の慰謝料請求権を行使することはできない。 3.妥当でない。
判例は「他人の不法行為によって財産以外の損害を被った場合には、その者は、・・・中略・・・、損害の発生と同時に慰謝料請求権を取得し、当該請求権を放棄したものと解しうる特別の事情がないかぎり、これを行使することができ、その損害の賠償を請求する意思を表明するなど格別の行為をすることを必要とするものではない。
そして、当該被害者が死亡したときは、その相続人は当然に慰謝料請求権を相続するものと解するのが相当である」とした(最判昭和42年11月1日)。
さらに同判例は「慰謝料請求権は、被害者がこれを行使する意思を表明し、またはこれを表明したものと同視すべき状況にあったとき、はじめて相続の対象となるとした原判決は、慰謝料請求権の性質およびその相続に関する民法の規定の解釈を誤ったものというべき」としている。
他人の不法行為により死亡した被害者の父母、配偶者、子以外の者であっても、被害者との間にそれらの親族と実質的に同視し得る身分関係が存在するため被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた場合には、その者は、加害者に対して直接固有の慰謝料請求をすることができる。 4.妥当である。
条文は「他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない」としている(民法711条)。
民法711条で規定されているのは、「被害者の父母、配偶者及び子」であり、これらの者には固有の慰謝料請求権が認められるとわかる。
では、被害者の父母、配偶者、子以外の者で、被害者との間にそれらの親族と実質的に同視し得る身分関係が存在する者には、固有の慰謝料請求権は認められるのだろうか。明文がないため、論点となる。
これについて判例は、「文言上民法711条に該当しない者であっても、被害者との間に民法711条所定の者と実質的に同視できる身分関係が存し、被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者は、民法711条の類推適用により、加害者に対し直接に固有の慰謝料を請求しうるものと解するのが、相当である」としている(最判昭和49年12月17日)。
他人の不法行為により子が重い傷害を受けたために、当該子が死亡したときにも比肩しうべき精神上の苦痛をその両親が受けた場合でも、被害者本人は生存しており本人に慰謝料請求権が認められるので、両親には固有の慰謝料請求権は認められていない。 5.妥当でない。
条文は「他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない」としている(民法711条)。
民法711条を見ると、「生命侵害」の場面においては被害者の父母に慰謝料請求権が認められている。では、「生命侵害」に近いものの、被害者本人が生きている場合は、被害者の父母には固有の慰謝料請求権は認められないのだろうか。
これについて判例は「被害者の父母が、被害者本人であるその子の死亡したときにも比肩しうべき精神上の苦痛を受けたと認められる場合は、民法709条、民法710条に基づいて、自己の権利として慰謝料を請求しうるものと解するのが相当である」としている(最判昭和33年8月5日)。
民法711条に基づかないだけであって、民法709条、民法710条に基づけば、固有の慰謝料請求権は認められるのである。