平成26年-問37 商法 会社法
Lv4
問題 更新:2023-01-30 21:49:53
株式会社の設立における出資等に関する次の記述のうち、会社法の規定に照らし、妥当でないものの組合せはどれか。
ア.株主となる者が設立時発行株式と引換えに払込み、または給付した財産の額は、その全額を資本金に計上することは要せず、その額の2分の1を超えない額を資本準備金として計上することができる。
イ.発起人は、会社の成立後は、錯誤を理由として設立時発行株式の引受けの無効を主張し、または詐欺もしくは強迫を理由として設立時発行株式の引受けの取消しをすることができない。
ウ.設立時発行株式を引き受けた発起人が出資の履行をしない場合には、当該発起人は当然に設立時発行株式の株主となる権利を失う。
エ.発起人または設立時募集株式の引受人が払い込む金銭の額および給付する財産の額の合計が、定款に定められた設立に際して出資される財産の価額またはその最低額に満たない場合には、発起人および設立時取締役は、連帯して、その不足額を払い込む義務を負う。
オ.設立時発行株式の総額は、設立しようとする会社が公開会社でない場合を除いて、発行可能株式総数の4分の1を下ることはできない。
- ア・イ
- ア・オ
- イ・ウ
- ウ・エ
- エ・オ
正解 4
解説
株主となる者が設立時発行株式と引換えに払込み、または給付した財産の額は、その全額を資本金に計上することは要せず、その額の2分の1を超えない額を資本準備金として計上することができる。 ア.妥当である。
株式会社の資本金の額は、この法律(会社法)に別段の定めがある場合を除き、設立又は株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額とする(会社法445条1項)。
前項の払込み又は給付に係る額の1/2を超えない額は、資本金として計上しないことができる(会社法445条2項)。
前項の規定により資本金として計上しないこととした額は、資本準備金として計上しなければならない(会社法445条3項)。
したがって、全額を資本金にするのではなく、1/2を超えない額を資本準備金として計上することができる。
発起人は、会社の成立後は、錯誤を理由として設立時発行株式の引受けの無効を主張し、または詐欺もしくは強迫を理由として設立時発行株式の引受けの取消しをすることができない。 イ.妥当である。
発起人は、株式会社の成立後は、錯誤を理由として設立時発行株式の引受けの無効を主張し、又は詐欺若しくは強迫を理由として設立時発行株式の引受けの取消しをすることができない(会社法51条2項)。
民法と会社法の関係において、民法が一般法であり、会社法が民法の特別法である。特別法は一般法の規定を修正することがあるが、会社法51条2項がその修正である。
そもそも「設立時発行株式の引受け」とは、意思表示である。意思表示である以上、錯誤があれば無効の主張ができ、詐欺・強迫があれば取消しの主張ができるはずである(民法の世界であれば)。その民法の規定を修正しているのが本肢で問われている規定である。
設立時発行株式を引き受けた発起人が出資の履行をしない場合には、当該発起人は当然に設立時発行株式の株主となる権利を失う。 ウ.妥当でない。
①発起人のうち出資の履行をしていないものがある場合には、発起人は、当該出資の履行をしていない発起人に対して、期日を定め、その期日までに当該出資の履行をしなければならない旨を通知しなければならない(会社法36条1項)。
②前項の規定による通知は、同項に規定する期日の2週間前までにしなければならない(会社法36条2項)。
③第一項の規定による通知を受けた発起人は、同項に規定する期日までに出資の履行をしないときは、当該出資の履行をすることにより設立時発行株式の株主となる権利を失う(会社法36条3項)。
これを「失権手続」といい、発起人については、出資の履行をしない場合でも当然には設立時発行株式の株主となる権利を失わないのである。
なお、募集設立の発起人以外の設立時株式引受人については、「失権手続」はない(つまり出資をしなければ即失権する)ことを付け加えておく。
発起人または設立時募集株式の引受人が払い込む金銭の額および給付する財産の額の合計が、定款に定められた設立に際して出資される財産の価額またはその最低額に満たない場合には、発起人および設立時取締役は、連帯して、その不足額を払い込む義務を負う。 エ.妥当でない。
株式会社の定款には、設立に際して出資される財産の価額又はその最低額を記載し、又は記録しなければならない(会社法27条4号)。
しかし発起人等の引受人が払い込む金銭の額および給付する財産の額の合計が定款に記載された「設立に際して出資される財産の価額またはその最低額」に満たない場合でも、発起人等には、不足額を払い込む義務はない。
したがって、当該場面で不足額を払い込む義務があるとする本肢は妥当でない。
なお、株式会社の「設立無効の訴え」を提訴するためには、無効原因が必要であり、その無効原因は客観的無効原因(簡単にいうと条文違反)に限られるとされる。
そして本肢の場面は、客観的無効原因にあたり、設立無効の訴えによって会社の存在が否定されることになりかねないことを付け加えておく。
設立時発行株式の総額は、設立しようとする会社が公開会社でない場合を除いて、発行可能株式総数の4分の1を下ることはできない。 オ.妥当である。
設立時発行株式の総数は、発行可能株式総数の1/4を下ることができない。ただし、設立しようとする株式会社が公開会社でない場合は、この限りでない(会社法37条3項)。いわゆる「4倍規制(4倍ルール)」である。
公開会社のみに「4倍規制」が存在する理由について、公開会社では、募集株式発行は取締役会で決定することができる。これは募集株式による資金調達は経営面からも重要であるためである。しかし、もし公開会社で4倍規制がなかったら、取締役会が恣意的に株主比率を変更することができ、既存株主の会社に対する影響力を少なくすることができてしまうからである。
なお、非公開会社には4倍規制がない。非公開会社では募集株式発行をする際に株主総会の特別決議が必要であり、上記のような取締役会による権利の濫用は難しいからである。