平成28年-問3 憲法 司法
Lv4
問題 更新:2023-11-14 21:22:25
次の文章は、最高裁判所判決の一節である。これを読んで空欄[ ア ]~[ ウ ]に正しい語を入れ、その上で、[ ア ]~[ ウ ]を含む文章として正しいものを、選びなさい。
最高裁判所裁判官任命に関する国民審査の制度はその実質において所謂[ ア ]の制度と見ることが出来る。それ故本来ならば[ イ ]を可とする投票が有権者の総数の過半数に達した場合に[ イ ]されるものとしてもよかったのである。それを憲法は投票数の過半数とした処が他の[ ア ]の制度と異るけれどもそのため[ ア ]の制度でないものとする趣旨と解することは出来ない。只[ イ ]を可とする投票数との比較の標準を投票の総数に採っただけのことであって、根本の性質はどこ迄も[ ア ]の制度である。このことは憲法第79条3項の規定にあらわれている。同条第2項の字句だけを見ると一見そうでない様にも見えるけれども、これを第3項の字句と照し会せて見ると、国民が[ イ ]すべきか否かを決定する趣旨であって、所論の様に[ ウ ]そのものを完成させるか否かを審査するものでないこと明瞭である。
(最大判昭和27年2月20日民集6巻2号122頁)
- [ ア ]は、レファレンダムと呼ばれ、地方公共団体の首長などに対しても認められる。
- [ ア ]に入る語は罷免、[ ウ ]に入る語は任命である。
- 憲法によれば、公務員を[ ア ]し、およびこれを[ イ ]することは、国民固有の権利である。
- 憲法によれば、内閣総理大臣は、任意に国務大臣を[ ア ]することができる。
- 憲法によれば、国務大臣を[ ウ ]するのは、内閣総理大臣である。
正解 5
解説
ア:解職、イ:罷免、ウ:任命
空欄に補充した文章は以下のとおり。
最高裁判所裁判官任命に関する国民審査の制度はその実質において所謂[ア:解職]の制度と見ることが出来る。それ故本来ならば[イ:罷免]を可とする投票が有権者の総数の過半数に達した場合に[イ:罷免]されるものとしてもよかったのである。それを憲法は投票数の過半数とした処が他の[ア:解職]の制度と異るけれどもそのため[ア:解職]の制度でないものとする趣旨と解することは出来ない。只[イ:罷免]を可とする投票数との比較の標準を投票の総数に採っただけのことであって、根本の性質はどこ迄も[ア:解職]の制度である。このことは憲法第79条3項の規定にあらわれている。同条第2項の字句だけを見ると一見そうでない様にも見えるけれども、これを第3項の字句と照し会せて見ると、国民が[イ:罷免]すべきか否かを決定する趣旨であって、所論の様に[ウ:任命]そのものを完成させるか否かを審査するものでないこと明瞭である。
本問は非常に有名な最高裁裁判官の国民審査についての判例からの出題である。
そもそも裁判官の国民審査については、その性質が条文で明らかではないため論点となっている。
見解としてはいくつかあるが、代表的な見解は次のとおり。
①国民投票は解職制度(リコール)であるとする見解 |
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裁判官は任命後、国民投票による審査を受けるまで裁判官としての職務を果たしているのであるから、任命行為によって任命は完了しており、国民投票は任命行為の完了行為(つまり任命行為の一部)であると考えることはできない。 国民投票で裁判官はその職を失うのだから、これは「解職制度」である。 |
②国民投票は任命行為の完了行為であるとする見解 |
条文によると、「最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行われる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し」とされている(憲法79条2項)。 「任命は、国民の審査に付し」と書いているのだから、国民投票は任命行為の一部であり、任命行為の完了行為である。 |
判例通説は、①の説を採用している。
②の説を採用すると、任命後から国民審査までの間にした裁判官の職務行為を説明することが難しいからである。
分かりやすくいうと、②の説を採用すると、任命行為が完了していない裁判官が各事案について判決を下すことになり、これの正当性を説明することが難しい。
本問は、裁判所の立場として①の見解であると明らかにした最大判昭和27年2月20日の判例に基づいた問題である。
ア:解職
当該判例は、国民投票制度を「解職制度」としたのであって、[ア]には「解職」が入る。
イ:罷免
[イ]は解職制度の「効果」を問うている。解職制度とは、簡単にいうと「クビを切るための制度」であるのだから、[イ]に「罷免」が入る。
ウ:任命
ウの前後を見ると「所論の様に[ウ]そのものを完成させるか否かを審査するものでない」としており、判例が上記②の説をとらないことを明確にしている。
②の説は「国民投票は、裁判官の任命行為の完了・完結である」とする説であるから、[ウ]には「任命」が入る。
[ア]は、レファレンダムと呼ばれ、地方公共団体の首長などに対しても認められる。 1.誤り。
[ア]には「解職」が入るから、「レファレンダム」は誤り。
直接民主制的な制度として、リコール(解職)、レファレンダム(国民投票・住民投票)、イニシアティブ(国民発案・住民発案)の3つの制度がある。
[ア]に入る語は罷免、[ウ]に入る語は任命である。 2.誤り。
[ア]に入る語は「解職」である。
憲法によれば、公務員を[ア]し、およびこれを[イ]することは、国民固有の権利である。 3.誤り。
公務員を[選定]し、およびこれを[罷免]することは、国民固有の権利である(憲法15条1項)。
憲法によれば、内閣総理大臣は、任意に国務大臣を[ア]することができる。 4.誤り。
内閣総理大臣は、任意に国務大臣を[罷免]することができる(憲法68条2項)。
憲法によれば、国務大臣を[ウ]するのは、内閣総理大臣である。 5.正しい。
内閣総理大臣は、国務大臣を[任命]する(憲法68条1項本文)。