平成28年-問34 民法 債権
Lv4
問題 更新:2024-01-07 12:21:44
不法行為に基づく損害賠償に関する次のア~オの記述のうち、民法の規定および判例に照らし、正しいものの組合せはどれか。
ア.使用者Aが、その事業の執行につき行った被用者Bの加害行為について、Cに対して使用者責任に基づき損害賠償金の全額を支払った場合には、AはBに対してその全額を求償することができる。
イ.Dの飼育する猛犬がE社製の飼育檻から逃げ出して通行人Fに噛みつき怪我を負わせる事故が生じた場合において、Dが猛犬を相当の注意をもって管理をしたことを証明できなかったとしても、犬が逃げ出した原因がE社製の飼育檻の強度不足にあることを証明したときは、Dは、Fに対する損害賠償の責任を免れることができる。
ウ.Gがその所有する庭に植栽した樹木が倒れて通行人Hに怪我を負わせる事故が生じた場合において、GがHに損害を賠償したときは、植栽工事を担当した請負業者Iの作業に瑕疵があったことが明らかな場合には、GはIに対して求償することができる。
エ.運送業者Jの従業員Kが業務として運転するトラックとLの運転する自家用車が双方の過失により衝突して、通行人Mを受傷させ損害を与えた場合において、LがMに対して損害の全額を賠償したときは、Lは、Kがその過失割合に応じて負担すべき部分について、Jに対して求償することができる。
オ.タクシー会社Nの従業員Oが乗客Pを乗せて移動中に、Qの運転する自家用車と双方の過失により衝突して、Pを受傷させ損害を与えた場合において、NがPに対して損害の全額を賠償したときは、NはOに対して求償することはできるが、Qに求償することはできない。
- ア・イ
- ア・ウ
- イ・ウ
- ウ・エ
- エ・オ
正解 4
解説
使用者Aが、その事業の執行につき行った被用者Bの加害行為について、Cに対して使用者責任に基づき損害賠償金の全額を支払った場合には、AはBに対してその全額を求償することができる。 ア.誤り。
AはBに「全額を」求償することができるとする本肢は誤り。
使用者から被用者に対する求償権の行使を妨げない(民法715条3項)から、AはBに求償することは可能である。
しかし求償の範囲につき判例は、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきであるとしている(最判昭和51年7月8日)。
使用者は被用者に事業の執行をさせることで利益を得ている以上、損失もその分負担するべきであるという考え方である。
Dの飼育する猛犬がE社製の飼育檻から逃げ出して通行人Fに噛みつき怪我を負わせる事故が生じた場合において、Dが猛犬を相当の注意をもって管理をしたことを証明できなかったとしても、犬が逃げ出した原因がE社製の飼育檻の強度不足にあることを証明したときは、Dは、Fに対する損害賠償の責任を免れることができる。 イ.誤り。
Dは責任を免れるとする本肢は誤り。
動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない(民法718条1項)。
Gがその所有する庭に植栽した樹木が倒れて通行人Hに怪我を負わせる事故が生じた場合において、GがHに損害を賠償したときは、植栽工事を担当した請負業者Iの作業に瑕疵があったことが明らかな場合には、GはIに対して求償することができる。 ウ.正しい。
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負い(民法717条1項)、これは竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合についても同様である(民法717条2項)。
また、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる(民法717条3項)。
損害の公平な分担のためである。
運送業者Jの従業員Kが業務として運転するトラックとLの運転する自家用車が双方の過失により衝突して、通行人Mを受傷させ損害を与えた場合において、LがMに対して損害の全額を賠償したときは、Lは、Kがその過失割合に応じて負担すべき部分について、Jに対して求償することができる。 エ.正しい。
判例は、被用者がその使用者の事業の執行につき第三者との共同の不法行為により他人に損害を加えた場合において、当該第三者が自己と被用者との過失割合に従って定められるべき自己の負担部分を超えて被害者に損害を賠償したときは、当該第三者は、被用者の負担部分について使用者に対し求償することができるものと解するのが相当であるとしている(最判昭和63年7月1日)
なお、これは損害の公平な分担から導かれる結論である。
上記判例は、使用者が被用者の活動によって利益をあげる関係にあることに着目し、利益の存するところに損失をも帰せしめるという発想から、上記結論を導いたものである。
タクシー会社Nの従業員Oが乗客Pを乗せて移動中に、Qの運転する自家用車と双方の過失により衝突して、Pを受傷させ損害を与えた場合において、NがPに対して損害の全額を賠償したときは、NはOに対して求償することはできるが、Qに求償することはできない。 オ.誤り。
NはQに求償できないとする本肢は誤り。
判例は、共同不法行為者たる被用者及び使用者、そして他の共同不法行為者らは、被害者に対して、各自、被害者が蒙った全損害を賠賞する義務を負うものというべきであり、また、当該債務の弁済をした使用者は、他の共同不法行為者に対し、他の共同不法行為者と被用者との過失の割合にしたがって定められるべき他の共同不法行為者の負担部分について求償権を行使することができるものと解するのが相当であるとしている(最判昭和41年11月18日)。
損害の公平な分担のためである。