平成30年-問31 民法 債権
Lv4
問題 更新:2024-01-07 12:11:51
弁済に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものはどれか。
- 債務者が元本のほか利息および費用を支払うべき場合において、弁済として給付した金銭の額がその債務の全部を消滅させるのに足りないときは、債務者による充当の指定がない限り、これを順次に費用、利息および元本に充当しなければならない。
- 同一の債権者に対して数個の金銭債務を負担する債務者が、弁済として給付した金銭の額が全ての債務を消滅させるのに足りない場合であって、債務者が充当の指定をしないときは、債権者が弁済を受領する時に充当の指定をすることができるが、債務者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは、この限りでない。
- 金銭債務を負担した債務者が、債権者の承諾を得て金銭の支払に代えて不動産を給付する場合において、代物弁済が成立するためには、債権者に所有権を移転させる旨の意思表示をするだけでは足りず、所有権移転登記がされなければならない。
- 債権者があらかじめ弁済の受領を拒んでいる場合、債務者は、口頭の提供をすれば債務不履行責任を免れるが、債権者において契約そのものの存在を否定する等弁済を受領しない意思が明確と認められるときは、口頭の提供をしなくても同責任を免れる。
- 債権者があらかじめ金銭債務の弁済の受領を拒んでいる場合、債務者は、口頭の提供をした上で弁済の目的物を供託することにより、債務を消滅させることができる。
正解 1
解説
債務者が元本のほか利息および費用を支払うべき場合において、弁済として給付した金銭の額がその債務の全部を消滅させるのに足りないときは、債務者による充当の指定がない限り、これを順次に費用、利息および元本に充当しなければならない。 1.妥当でない。
弁済として給付した金銭の額がその債務の全部を消滅させるのに足りないときの充当の順序は、当事者の合意がなければ、費用、利息及び元本の順であり、当事者の一方の指定によって変更することはできない。
元本、利息及び費用を支払うべき場合の充当については、「債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合(債務者が数個の債務を負担する場合にあっては、同一の債権者に対して債務を負担する場合にあっては、同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担するときに限る。)において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない」(民法489条1項)。
同一の債権者に対して数個の金銭債務を負担する債務者が、弁済として給付した金銭の額が全ての債務を消滅させるのに足りない場合であって、債務者が充当の指定をしないときは、債権者が弁済を受領する時に充当の指定をすることができるが、債務者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは、この限りでない。 2.妥当である。
弁済の充当の指定については、「債務者が同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合において、弁済として提供した給付がすべての債務を消滅させるのに足りないときは、弁済をする者は、給付の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができ、弁済をする者が指定をしないときは、弁済を受領する者は、その受領の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。ただし、弁済をする者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは、この限りでない」と規定している(民法488条1項2項)。
金銭債務を負担した債務者が、債権者の承諾を得て金銭の支払に代えて不動産を給付する場合において、代物弁済が成立するためには、債権者に所有権を移転させる旨の意思表示をするだけでは足りず、所有権移転登記がされなければならない。 3.妥当である。
弁済とは、債務者の給付行為によって債権者が給付結果を得ることができることをいい、これにより債権は目的を達成して消滅する。
原則として債務者は債務の本旨に従って給付をしなければならないが、例外として、「弁済をすることができる者(弁済者)が、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において、その弁済者が当該他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。」(民法482条)とし、代物弁済を認めている。
代物弁済による債務の消滅について判例は、「不動産所有権の譲渡をもってする代物弁済による債務消滅の効果は、単に当事者がその意思表示をするだけでは足りず、登記その他引渡し行為を完了し、第三者に対する対抗要件を具備したときでなければ生じない」としている(最判昭和40年4月30日、最判昭和57年6月4日)。
なお、代物弁済による所有権の移転については、原則として当事者間の代物弁済契約の意思表示によって生ずる(最判昭和57年6月4日)。
債権者があらかじめ弁済の受領を拒んでいる場合、債務者は、口頭の提供をすれば債務不履行責任を免れるが、債権者において契約そのものの存在を否定する等弁済を受領しない意思が明確と認められるときは、口頭の提供をしなくても同責任を免れる。 4.妥当である。
原則として、弁済の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければならない。
ただし、債権者があらかじめその受領を拒んでいる場合や、債務の履行について債権者の行為を要するときは、例外として口頭の提供でも足りる。
口頭の提供とは、「債権者があらかじめその受領を拒み、又は債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告」する行為である(民法493条ただし書き)。
さらに、口頭の提供すら必要がない場合として、判例は「債権者が契約そのものの存在を否定するなど弁済を受領しない意思が明確と認められる場合には、債務者は口頭の提供をしなくとも債務不履行の責めを免れる」としている(最判昭和32年6月5日)。
債権者があらかじめ金銭債務の弁済の受領を拒んでいる場合、債務者は、口頭の提供をした上で弁済の目的物を供託することにより、債務を消滅させることができる。 5.妥当である。
債権者が弁済の受領を拒み、又は受領することができないときは、弁済をすることができる者は、債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができる(民法494条)。
債権者があらかじめ金銭債務の弁済の受領を拒んでいる場合、供託をするための要件について、条文は「弁済者は、弁済の提供をした場合において、債権者がその受領を拒んだときには、債権者のために弁済の目的物を供託することができる。この場合においては、弁済者が供託をした時に、その債権は、消滅する」と規定している(民法494条1項1号)。
当該条文の趣旨は「債権者があらかじめ受領を拒んでも、原則として債務者は口頭の提供をしてからでないと供託できない(最判大正10年4月30日)」とする判例の立場を明文化したものである。
なお、債務者が口頭の提供をしても債権者が弁済を受領しないことが明確な場合は、直ちに供託することができる(大判大正11年10月25日)。