平成30年-問30 民法 物権
Lv3
問題 更新:2024-01-04 16:18:43
抵当権の効力に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
- 抵当権の効力は抵当不動産の従物にも及ぶが、抵当不動産とは別個に従物について対抗要件を具備しなければ、その旨を第三者に対して対抗することができない。
- 借地上の建物に抵当権が設定された場合において、その建物の抵当権の効力は、特段の合意がない限り借地権には及ばない。
- 買戻特約付売買の買主が目的不動産について買主の債権者のために抵当権を設定し、その旨の登記がなされたところ、その後、売主が買戻権を行使した場合、買主が売主に対して有する買戻代金債権につき、上記抵当権者は物上代位権を行使することができる。
- 抵当不動産が転貸された場合、抵当権者は、原則として、転貸料債権(転貸賃料請求権)に対しでも物上代位権を行使することができる。
- 抵当権者が、被担保債権について利息および遅延損害金を請求する権利を有するときは、抵当権者は、原則として、それらの全額について優先弁済権を行使することができる。
正解 3
解説
抵当権の効力は抵当不動産の従物にも及ぶが、抵当不動産とは別個に従物について対抗要件を具備しなければ、その旨を第三者に対して対抗することができない。 1.妥当でない。
従物に個別の対抗要件が必要かについて、判例は「石灯籠および取り外しのできる庭石等は本件根抵当権の目的たる宅地の従物であり(中略)、本件宅地の根抵当権の効力は、右構成部分に及ぶことはもちろん、右従物にも及び、この場合右根抵当権は本件宅地に対する根抵当権設定登記をもって、その構成部分たる右物件についてはもちろん、抵当権の効力から除外する等特段の事情のないかぎり、民法370条により従物たる右物件についても対抗力を有するものと解するのが相当である」としている(最判昭和44年3月28日)。
借地上の建物に抵当権が設定された場合において、その建物の抵当権の効力は、特段の合意がない限り借地権には及ばない。 2.妥当でない。
従たる権利に抵当権の効力が及ぶのかについて、判例は「土地賃借人が当該土地上に所有する建物について抵当権を設定した場合には、原則として、右抵当権の効力は当該土地の賃借権に及び、(中略)、建物を所有するために必要な敷地の賃借権は、右建物所有権に付随し、これと一体となって一の財産的価値を形成しているものであるから、建物に抵当権が設定されたときは敷地の賃借権も原則としてその効力の及ぶ目的物に包含されるものと解すべきであるからである」としている(最判昭和40年5月4日)。
買戻特約付売買の買主が目的不動産について買主の債権者のために抵当権を設定し、その旨の登記がなされたところ、その後、売主が買戻権を行使した場合、買主が売主に対して有する買戻代金債権につき、上記抵当権者は物上代位権を行使することができる。 3.妥当である。
物上代位とは、担保物権の目的物が売却、賃貸、滅失または破損によって、その目的物の所有者が金銭その他の物を受ける請求権を取得した場合、担保物権がこれらの請求権の上に効力を及ぼし、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならないことを指す(民法304条)。
そして、民法372条では、物上代位を抵当権について準用するとしている。
買戻し特約付き売買の買主が目的不動産に抵当権を設定した場合、抵当権者は買戻しにより買主が取得する売買代金に対して、物上代位を行使することができるかについて、判例は「買戻し特約付き売買の買主から目的不動産につき抵当権の設定を受けた者は、抵当権に基づく物上代位権の行使として、買戻し権の行使により買主が取得した買戻し債権を差し押さえることができる」としている(最判平成11年11月30日)。
抵当不動産が転貸された場合、抵当権者は、原則として、転貸料債権(転貸賃料請求権)に対しでも物上代位権を行使することができる。 4.妥当でない。
転貸賃料債権に対して抵当権の物上代位を行使することができるかについて、判例は「抵当権者は、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合を除き、右賃借人が取得する転貸賃料債権について物上代位権を行使することができない」としている(最判平成12年4月14日)。
その理由として、同判例は「民法372条によって抵当権に準用される同法304条1項に規定する「債務者」には、原則として、抵当不動産の賃借人(転貸人)は含まれないものと解すべきである。
けだし、所有者は被担保債権の履行について抵当不動産をもって物的責任を負担するものであるのに対し、抵当不動産の賃借人(転貸人)は、このような責任を負担するものではなく、自己に属する債権を被担保債権の弁済に供されるべき立場にはないからである。」とした。
抵当権者が、被担保債権について利息および遅延損害金を請求する権利を有するときは、抵当権者は、原則として、それらの全額について優先弁済権を行使することができる。 5.妥当でない。
抵当権の被担保債権の範囲については、「抵当権者は、利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の2年分についてのみ、その抵当権を行使することができ、債務の不履行によって生じた損害の賠償を請求する権利を有する場合におけるその最後の2年分についても適用する」としている(民法375条1項2項)。
抵当権は、目的物を抵当権設定者が占有することができるため、抵当権設定後も後順位抵当権者や一般債権者などの多くの利害関係人が生じる可能性があり、そのような者たちとの関係において抵当権の被担保債権の範囲を制限し、利害関係人を保護するためである。
抵当権者は、元本については全額の優先弁済を受けられるが、利息その他の定期金については、満期となった最後の2年分についてのみしか、弁済を受けることができない。