令和元年-問7 憲法 その他
Lv4
問題 更新:2023-01-28 12:32:29
動物愛護や自然保護に強い関心を持つ裁判官A氏は、毛皮の採取を目的とした野生動物の乱獲を批判するため、休日に仲間と語らって派手なボディペインティングをした風体でデモ行進を行い、その写真をソーシャルメディアに掲載したところ、賛否両論の社会的反響を呼ぶことになった。事態を重く見た裁判所は、A氏に対する懲戒手続を開始した。
このニュースに関心を持ったBさんは、事件の今後の成り行きを予測するため情報収集を試みたところ、裁判官の懲戒手続一般についてインターネット上で次の1~5の出所不明の情報を発見した。このうち、法令や最高裁判所の判例に照らし、妥当なものはどれか。
- 裁判官の身分保障を手続的に確保するため、罷免については国会に設置された弾劾裁判所が、懲戒については独立の懲戒委員会が決定を行う。
- 裁判官の懲戒の内容は、職務停止、減給、戒告または過料とされる。
- 司法権を行使する裁判官に対する政治運動禁止の要請は、一般職の国家公務員に対する政治的行為禁止の要請よりも強い。
- 政治運動を理由とした懲戒が憲法21条に違反するか否かは、当該政治運動の目的や効果、裁判官の関わり合いの程度の3点から判断されなければならない。
- 表現の自由の重要性に鑑みれば、裁判官の品位を辱める行状があったと認定される事例は、著しく品位に反する場合のみに限定されなければならない。
正解 3
解説
判事の分限裁判について、過去問でも出題された「寺西判事補事件」(最大決平成10年12月1日)についての問いが中心である。
裁判官の身分保障を手続的に確保するため、罷免については国会に設置された弾劾裁判所が、懲戒については独立の懲戒委員会が決定を行う。 1.妥当でない。
「懲戒については独立の懲戒委員会が決定を行う」としている点が妥当でない。
裁判官の職権行使の独立を確保するため、憲法は裁判官の身分の保障について規定している。
裁判官の懲戒については、「裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行うことはできない」(憲法78条後文)とし、裁判官分限法にしたがい、分限裁判によってなされる。
裁判官の懲戒事由としては、「職務上の義務違反・怠った場合」「裁判官としての品位を辱める行状があった場合」の2つがあげられている(裁判所法49条)。
なお、裁判官の罷免については、「裁判官は、裁判により心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾裁判によらなければ罷免されない」(憲法78条前文)としている。
裁判官の懲戒の内容は、職務停止、減給、戒告または過料とされる。 2.妥当でない。
裁判官の懲戒は、戒告又は1万円以下の過料であり(裁判官分限法2条)、裁判官分限法に基づく分限裁判によって決定される。
最高裁判所及び高等裁判所の裁判官については、最高裁判所の大法廷で審判がされ、その他の裁判官は、高等裁判所において、5人の裁判官による合議体で審判が行われる。
司法権を行使する裁判官に対する政治運動禁止の要請は、一般職の国家公務員に対する政治的行為禁止の要請よりも強い。 3.妥当である。
判例は、「裁判所法52条1号が裁判官の積極的な政治運動を禁止しているのは、裁判官の独立及び中立・公正を確保し、裁判に対する国民の信頼を維持するとともに、三権分立主義の下における司法と立法、行政とのあるべき関係を規律することにその目的があると解されるのであり、右目的の重要性及び裁判官は単独で又は合議体の一員として司法権を行使する主体であることにかんがみれば、裁判官に対する政治運動禁止の要請は、一般職の国家公務員に対する政治的行為禁止の要請より強いものというべきである」としている(最大決平成10年12月1日)。
政治運動を理由とした懲戒が憲法21条に違反するか否かは、当該政治運動の目的や効果、裁判官の関わり合いの程度の3点から判断されなければならない。 4.妥当でない。
裁判官に対し「積極的に政治運動をすること」を禁止することは、必然的に裁判官の表現の自由を一定範囲で制約することにはなるが、右制約が合理的で必要やむを得ない限度にとどまるものである限り、憲法の許容するところであるといわなければならず、①右の禁止の目的が正当であって、②その目的と禁止との間に合理的関連性があり、③禁止により得られる利益と失われる利益との均衡を失するものでないなら、憲法21条1項に違反しないというべきである(最大決平成10年12月1日)。
表現の自由の重要性に鑑みれば、裁判官の品位を辱める行状があったと認定される事例は、著しく品位に反する場合のみに限定されなければならない。 5.妥当でない。
判例は、「品位を辱める行状」とは、職務上の行為であると、純然たる私的行為であるとを問わず、およそ裁判官に対する国民の信頼を損ね、又は裁判の公正を疑わせるような言動をいうものと解するのが相当である(最大決平成30年10月17日)とし、著しく品位に反する場合のみに限定されなければならないわけではない。