令和元年-問8 行政法 行政総論
Lv3
問題 更新:2023-01-28 12:34:51
行政上の義務の履行確保手段に関する次の記述のうち、法令および判例に照らし、正しいものはどれか。
- 即時強制とは、非常の場合または危険切迫の場合において、行政上の義務を速やかに履行させることが緊急に必要とされる場合に、個別の法律や条例の定めにより行われる簡易な義務履行確保手段をいう。
- 直接強制は、義務者の身体または財産に直接に実力を行使して、義務の履行があった状態を実現するものであり、代執行を補完するものとして、その手続が行政代執行法に規定されている。
- 行政代執行法に基づく代執行の対象となる義務は、「法律」により直接に命じられ、または「法律」に基づき行政庁により命じられる代替的作為義務に限られるが、ここにいう「法律」に条例は含まれない旨があわせて規定されているため、条例を根拠とする同種の義務の代執行については、別途、その根拠となる条例を定める必要がある。
- 行政上の秩序罰とは、行政上の秩序に障害を与える危険がある義務違反に対して科される罰であるが、刑法上の罰ではないので、国の法律違反に対する秩序罰については、非訟事件手続法の定めるところにより、所定の裁判所によって科される。
- 道路交通法に基づく違反行為に対する反則金の納付通知について不服がある場合は、被通知者において、刑事手続で無罪を主張するか、当該納付通知の取消訴訟を提起するかのいずれかを選択することができる。
正解 4
解説
即時強制とは、非常の場合または危険切迫の場合において、行政上の義務を速やかに履行させることが緊急に必要とされる場合に、個別の法律や条例の定めにより行われる簡易な義務履行確保手段をいう。 1.誤り。
即時強制とは、非常の場合または危険切迫の場合など、義務を命じる余裕がない場合に、義務の不履行を前提とせず、国民の身体や財産に直接有形力を行使して、行政上必要な状態を実現するものである。
即時強制は、行政上の義務を速やかに履行させることが緊急に必要とされる場合ではなく、義務の不履行を前提としていないところに特徴があり、強制執行(特に、直接強制)との大きな違いといえる。
直接強制は、義務者の身体または財産に直接に実力を行使して、義務の履行があった状態を実現するものであり、代執行を補完するものとして、その手続が行政代執行法に規定されている。 2.誤り。
直接強制は、代執行を補完するものとしてその手続きが行政代執行法に規定されているわけではないので誤り。
直接強制は、義務者の不履行を前提として、直接義務者の身体や財産に直接有形力を行使し、義務の内容を実現するものである。
代替的・非代替的義務、作為・不作為義務であるかを問わないため、本来の対象範囲は広く、効率的に行政目的を実現することができる。
しかし、権利の侵害につながる可能性が高く、実際に法制されている例は少ないといえる。
たとえば、成田新法による建物の実力封鎖、性病予防法による強制健診など限定的な範囲で認められているに過ぎない。
行政代執行法に基づく代執行の対象となる義務は、「法律」により直接に命じられ、または「法律」に基づき行政庁により命じられる代替的作為義務に限られるが、ここにいう「法律」に条例は含まれない旨があわせて規定されているため、条例を根拠とする同種の義務の代執行については、別途、その根拠となる条例を定める必要がある。 3.誤り。
行政代執行に基づく代執行の対象となる義務は、法律(法律の委任に基づく命令、規則及び条例を含む)により直接に命ぜられ、又は法律に基づき行政庁により命ぜられた行為について、義務者がこれを履行しない場合に行うことができる(行政代執行法2条)。
条文上は法律としているが、かっこ書きで、法律の委任に基づく命令、規則及び条例を含むとされている点に注意しておきたい。
行政上の秩序罰とは、行政上の秩序に障害を与える危険がある義務違反に対して科される罰であるが、刑法上の罰ではないので、国の法律違反に対する秩序罰については、非訟事件手続法の定めるところにより、所定の裁判所によって科される。 4.正しい。
行政上の秩序罰とは、犯罪に至らない、軽微な行政上の義務違反行為に制裁として科す過料をいう。刑法上の罰ではないので、国の法律違反の場合は、非訟事件手続法に基づいて裁判所により科される(非訟事件手続法119条以下-第五編 過料事件以下)。
なお、地方公共団体の条例や規則に違反した場合の過料は、地方公共団体の長が行政処分として科す。
道路交通法に基づく違反行為に対する反則金の納付通知について不服がある場合は、被通知者において、刑事手続で無罪を主張するか、当該納付通知の取消訴訟を提起するかのいずれかを選択することができる。 5.誤り。
交通反則金の納付の通告は、納付すべき法律上の義務が生じるわけではなく、任意に反則金を納付したときは公訴が提起されないにとどまる。
当該通告には処分性は認められず、取消訴訟を提起することはできない。
よって、反則金の納付の通告について不服がある場合は、被通知者において、その反則金を納付せず、後に公訴が提起されたときの刑事手続きの中で争うことになる。
「道路交通法は、通告を受けた者が、その自由意思により、通告に係る反則金を納付し、これによる事案の終結の途を選んだときは、もはや当該通告の理由となった反則行為の不成立等を主張して通告自体の適否を争い、これに対する抗告訴訟によってその効果の覆滅を図ることはこれを許さず、右のような主張をしようとするのであれば、反則金を納付せず、後に公訴が提起されたときにこれによって開始された刑事手続の中でこれを争い、これについて裁判所の審判を求める途を選ぶべきであるとしているものと解するのが相当である」(最判昭和57年5月15日)