令和2年-問46 記述式 民法
Lv4
問題 更新:2021-01-11 12:18:41
以下の[設例]および[判例の解説]を読んで記述せよ。
[設例]
A所有の甲不動産をBが買い受けたが登記未了であったところ、その事実を知ったCが日頃Bに対して抱いていた怨恨(えんこん)の情を晴らすため、AをそそのかしてもっぱらBを害する目的で甲不動産を二重にCに売却させ、Cは、登記を了した後、これをDに転売して移転登記を完了した。Bは、Dに対して甲不動産の取得を主張することができるか。
[判例の解説]
上記[設例]におけるCはいわゆる背信的悪意者に該当するが、判例はかかる背信的悪意者からの転得者Dについて、無権利者からの譲受人ではなくD自身が背信的悪意者と評価されるのでない限り、甲不動産の取得をもってBに対抗しうるとしている。
上記の[設例]について、上記の[判例の解説]の説明は、どのような理由に基づくものか。「背信的悪意者は」に続けて、背信的悪意者の意義をふまえつつ、Dへの譲渡人Cが無権利者でない理由を、40字程度で記述しなさい。
背信的悪意者は、
正解例 信義則上、登記の欠缺を主張する正当な利益を有しないが、AC間の売買自体は無効でないため。(44字)
解説
本問は、最判昭和44年1月16日、最判平成8年10月29日の判決を題材として作成されている。[判例の解説]部分は、最判平成8年10月29日判決の判旨部分であり、設問は、その理由部分を問うものである。
裁判所の判決文をじっくりと読み込んでいれば、理由部分も記憶に残っていたかもしれないが、多くの受験生は、「背信的悪意者からの転得者Dについて、無権利者からの譲受人ではなくD自身が背信的悪意者と評価されるのでない限り、甲不動産の取得をもってBに対抗しうる」という結論部分のほうが記憶に残っているかと思われる。
まず、「背信的悪意者の意義」について判例は、「実体上物権変動があった事実を知りながら当該不動産について利害関係を持つに至った者において、右物権変動についての登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情がある場合には、かかる背信的悪意者は登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有しないものであって、民法177条にいう「第三者」にあたらないものと解すべき」(最判昭和44年1月16日)としている。すなわち、背信的悪意者とは、信義則上、登記の欠缺を主張することのできない者ということになる。
次に、「譲渡人Cが無権利者でない理由」ついて判例は、「所有者甲から乙が不動産を買い受け、その登記が未了の間に、丙が当該不動産を甲から二重に買い受け、更に丙から転得者丁が買い受けて登記を完了した場合に、たとい丙が背信的悪意者にあたるとしても、丁は、乙に対する関係で丁自身が背信的悪意者と評価されるのでない限り、当該不動産の所有権取得をもって乙に対抗することができるものと解するのが相当である。」
「けだし、丙が背信的悪意者であるがゆえに登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者にあたらないとされる場合であっても、乙は、丙が登記を経由した権利を乙に対抗することができないことの反面として、登記なくして所有権取得を丙に対抗することができるというにとどまり、甲丙間の売買自体の無効を来すものではなく、したがって、丁は無権利者から当該不動産を買い受けたことにはならない。また、背信的悪意者が正当な利益を有する第三者にあたらないとして民法177条の「第三者」から排除されるゆえんは、第一譲受人の売買等に遅れて不動産を取得し登記を経由した者が登記を経ていない第一譲受人に対してその登記の欠缺を主張することがその取得の経緯等に照らし信義則に反して許されないということにあるのであって、登記を経由した者がこの法理によって「第三者」から排除されるかどうかは、その者と第一譲受人との間で相対的に判断されるべき事柄であるからである」(最判平成8年10月29日)としている。
すなわち、Bは、登記なくして所有権取得をCに主張することができるだけであり、AC間の売買契約自体の無効をきたすものではないということになる。
したがって、AC間の売買契約は有効であり、Dは無権利者から当該不動産を買い受けたことにはならないのである。