令和4年-問11 行政法 行政手続法
Lv2
問題 更新:2023-01-17 10:03:13
申請に対する処分について定める行政手続法の規定に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。
- 行政庁は、申請がその事務所に到達してから当該申請に対する処分をするまでに通常要すべき標準的な期間を定めるよう努め、これを定めたときは、行政手続法所定の方法により公にしておかなければならない。
- 行政庁は、法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請について、それを理由として申請を拒否することはできず、申請者に対し速やかにその補正を求めなければならない。
- 行政庁は、申請により求められた許認可等の処分をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示すよう努めなければならない。
- 行政庁は、定められた標準処理期間を経過してもなお申請に対し諾否の応答ができないときは、申請者に対し、当該申請に係る審査の進行状況および処分の時期の見込みを書面で通知しなければならない。
- 行政庁は、申請に対する処分であって、申請者以外の者の利益を考慮すべきことが当該法令において許認可等の要件とされているものを行う場合には、当該申請者以外の者および申請者本人の意見を聴く機会を設けなければならない。
正解 1
解説
行政庁は、申請がその事務所に到達してから当該申請に対する処分をするまでに通常要すべき標準的な期間を定めるよう努め、これを定めたときは、行政手続法所定の方法により公にしておかなければならない。 1.妥当である
行政庁は、申請がその事務所に到達してから当該申請に対する処分をするまでに通常要すべき標準的な期間(法令により当該行政庁と異なる機関が当該申請の提出先とされている場合は、併せて、当該申請が当該提出先とされている機関の事務所に到達してから当該行政庁の事務所に到達するまでに通常要すべき標準的な期間)を定めるよう努めるとともに、これを定めたときは、これらの当該申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により公にしておかなければならない(行政手続法6条)。
「標準処理期間」とは、申請がその事務所に到達してから当該申請に対する処分をするまでに通常要すべき標準的な期間のことである。
行政庁には、標準処理期間を定める努力義務があり、定めた場合はそれを公にする法的義務がある。
これは、申請者に対して、その期間の予想可能性を与えるとともに、申請に対する処分の迅速で公正な処理を確保する趣旨である。
行政手続法の義務と努力義務の比較は行政法テキスト10を参照。
行政庁は、法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請について、それを理由として申請を拒否することはできず、申請者に対し速やかにその補正を求めなければならない。 2.妥当でない
行政庁は、申請要件の不備について申請を拒否することができ、補正を求める必要はない。
行政庁は、申請がその事務所に到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならず、かつ、申請書の記載事項に不備がないこと、申請書に必要な書類が添付されていること、申請をすることができる期間内にされたものであることその他の法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請については、速やかに、申請をした者に対し相当の期間を定めて当該申請の補正を求め、又は当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない(行政手続法7条)。
法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請について、それが補正不可能の場合であれば補正を求める必要はない。
補正可能の場合は、法の趣旨からいえば補正を命じるべきであろうが、条文上はあくまでも補正と拒否は選択の関係であり、行政庁は補正を求めなくても許認可等の拒否をすることができる。
なお、行政不服審査法では、審査請求書に不備がある場合その補正を命じることが規定されており、補正が義務となっている(行政不服審査法23条)。
行政庁は、申請により求められた許認可等の処分をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示すよう努めなければならない。 3.妥当でない
「努めなければならない」という点が妥当でない。また、義務かそうでないかは処分の内容による。
本肢では、申請により求められた許認可等の処分をする場合と問いていることから、拒否処分と容認処分のそれぞれを検討しなければならない。
まず、拒否処分について条文は、行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならない(行政手続法8条1項本文)とし、拒否処分と同時に申請者に対して処分理由を示すことを義務付けている。
一方、許認可等の申請を容認する処分については条文に規定はないが、理由を示す必要はないとされている。
したがって、いずれにせよ「努めなければならない」という点が妥当でない。
なお、拒否する理由が法令や審査基準により、申請書等の内容から明らかであるときは、申請者の求めがあったときにこれを示せば足り(行政手続法8条1項ただし書き)、申請により求められた許認可等を拒否する処分を書面でする場合は、どのような理由によって拒否したのかを書面にて示さなければならない(行政手続法8条2項)。
行政庁は、定められた標準処理期間を経過してもなお申請に対し諾否の応答ができないときは、申請者に対し、当該申請に係る審査の進行状況および処分の時期の見込みを書面で通知しなければならない。 4.妥当でない
「通知しなければならない」という点が妥当でない。この場合、通知の義務はない。
標準処理期間については、肢1参照。
標準処理期間は、行政庁としては自己の努力目標とする期間となりうるが、当該期間内の処理を保証しているわけではなく、申請者にとっては、あくまで目安にしか過ぎないものであるため、申請の処理が標準処理期間を超える場合でも、その理由や進行状況等の標準処理期間を超えたことに関する通知をする義務はない(行政手続法6条)。
なお、標準処理期間を超えたからといって、直ちに不作為の不服申立て(行政不服審査法7条)や不作為の違法確認の訴え(行政事件訴訟法3条5項)における「相当の期間」にあたるものではないと解されている。
また、行政庁は、申請者の求めに応じ、当該申請に係る審査の進行状況及び当該申請に対する処分の時期の見通しを示すようにする努力義務があるが(行政手続法9条1項)、これは、「申請者の求めに応じて」であって、行政庁から情報提供することまでの努力義務はない。
当然ながら、申請者以外の利害関係者から求められてもそれに応じる努力義務もない。
行政庁は、申請に対する処分であって、申請者以外の者の利益を考慮すべきことが当該法令において許認可等の要件とされているものを行う場合には、当該申請者以外の者および申請者本人の意見を聴く機会を設けなければならない。 5.妥当でない
「当該申請者以外の者および申請者本人の」意見を聴く機会を「設けなければならない」としている点が妥当でない。
対象者は「申請者以外の者の利害を考慮すべき者」である。そしてこの場合、努力義務である。
行政庁は、申請に対する処分であって、申請者以外の者の利害を考慮すべきことが当該法令において許認可等の要件とされているものを行う場合には、必要に応じ、公聴会の開催その他の適当な方法により当該申請者以外の者の意見を聴く機会を設けるよう努めなければならない(行政手続法10条)。
また、意見を聴く機会については公聴会の開催に限定されておらず、たとえば、意見書の提出やアンケート調査などがある。