令和4年-問14 行政法 行政不服審査法
Lv3
問題 更新:2023-01-17 10:05:28
行政不服審査法の規定に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。
- 行政庁の処分につき処分庁以外の行政庁に審査請求をすることができる場合には、行政不服審査法の定める例外を除き、処分庁に対して再調査の請求をすることができる。
- 行政不服審査法に基づく審査請求を審理した審理員は、審理手続を終結したときは、遅滞なく、審査庁がすべき裁決に関する意見書を作成し、速やかに、これを事件記録とともに、審査庁に提出しなければならない。
- 法令に違反する事実がある場合において、その是正のためにされるべき処分がされていないと思料する者は、行政不服審査法に基づく審査請求によって、当該処分をすることを求めることができる。
- 法令に違反する行為の是正を求める行政指導の相手方は、当該行政指導が違法なものであると思料するときは、行政不服審査法に基づく審査請求によって、当該行政指導の中止を求めることができる。
- 地方公共団体の機関がする処分であってその根拠となる規定が条例に置かれているものにも行政不服審査法が適用されるため、そのような処分についての審査請求がされた行政庁は、原則として総務省に置かれた行政不服審査会に諮問をしなければならない。
正解 2
解説
行政庁の処分につき処分庁以外の行政庁に審査請求をすることができる場合には、行政不服審査法の定める例外を除き、処分庁に対して再調査の請求をすることができる。 1.妥当でない
法律に再調査の請求をすることができる旨の定めがなければ再調査の請求はできない。したがって妥当でない。
再調査の請求ができるのは、「行政庁の処分につき処分庁以外の行政庁に対して審査請求をすることができる場合」かつ「法律に再調査の請求をすることができる旨の定めがあるとき」である(行政不服審査法5条1項本文)。
なお、法律が特に再調査の請求を認めている場合には不服申立人は審査請求と再調査の請求を選択できるが、審査請求を選択した場合は原則として再調査の請求はできない(行政不服審査法5条1項ただし書き)。
行政不服審査法に基づく審査請求を審理した審理員は、審理手続を終結したときは、遅滞なく、審査庁がすべき裁決に関する意見書を作成し、速やかに、これを事件記録とともに、審査庁に提出しなければならない。 2.妥当である
審理員は、審理手続を終結したときは、遅滞なく、審査庁がすべき裁決に関する意見書(審理員意見書)を作成しなければならず(行政不服審査法42条1項)、審理員意見書を作成したときは、速やかに、これを事件記録とともに、審査庁に提出しなければならない(行政不服審査法42条2項)。
審理手続を終結したときは、審理員には、審理員意見書の作成や事件記録の提出が義務付けられている。
審理員の審理の結果は、審査庁がすべき裁決に反映される必要があり、審査庁がすべき裁決の原案となる。
また、事件記録とは、審査請求書、弁明書その他審査請求に係る事件に関する書類その他の物件の内政令で定めるものである(行政不服審査法41条3項)。
法令に違反する事実がある場合において、その是正のためにされるべき処分がされていないと思料する者は、行政不服審査法に基づく審査請求によって、当該処分をすることを求めることができる。 3.妥当でない
「行政不服審査法に基づく審査請求によって」という点が妥当でない。
「是正のためにされるべき処分がされていない」と思ったとしても、それだけでは行政不服審査法に基づく審査請求はできない。
行政手続法に基づき、「何人も、法令に違反する事実がある場合において、その是正のためにされるべき処分又は行政指導(その根拠となる規定が法律に置かれているものに限る。)がされていないと思料するときは、当該処分をする権限を有する行政庁又は当該行政指導をする権限を有する行政機関に対し、その旨を申し出て、当該処分又は行政指導をすることを求めることはできる(行政手続法36条の3第1項)。」
不服審査法に基づく審査請求は、行政庁の処分に不服がある者がすることができると規定されている(行政不服審査法2条)。
「行政庁の処分に不服のある者」について、判例は、「行政庁の処分に対し不服申立をすることができる者は、法律に特別の定めがない限り、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがある者である。・・・単に一般消費者であるというだけでは・・・不服申立をする法律上の利益をもつ者であるということはできない」としている(最判昭和53年3月14日)。
法令に違反する行為の是正を求める行政指導の相手方は、当該行政指導が違法なものであると思料するときは、行政不服審査法に基づく審査請求によって、当該行政指導の中止を求めることができる。 4.妥当でない
「行政不服審査法に基づく審査請求によって」という点が妥当でない。
法令に違反する行為の是正を求める行政指導の相手方は、行政手続法に基づき当該行政指導の中止その他必要な措置をとることを求めることになる。
行政手続法は、「法令に違反する行為の是正を求める行政指導(その根拠となる規定が法律に置かれているものに限る。)の相手方は、当該行政指導が当該法律に規定する要件に適合しないと思料するときは、当該行政指導をした行政機関に対し、その旨を申し出て、当該行政指導の中止その他必要な措置をとることを求めることができる」(行政手続法36条の2第1項ただし書き)と規定している。
なお、行政庁の処分その他公権力の行使にあたる行為(処分)に関する不服申立てについては、他の法律に特別の定めがある場合を除くほかは、行政不服審査法の定めるところによる(行政不服審査法1条2項)。
この「処分」の概念は、行政事件訴訟法における抗告訴訟の対象である処分の概念と基本的には同じと解されており、判例は、「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」としている(最判昭和39年10月29日)。
行政指導のような非権力的作用は、原則として行政不服審査法による不服申し立てをすることができない。
地方公共団体の機関がする処分であってその根拠となる規定が条例に置かれているものにも行政不服審査法が適用されるため、そのような処分についての審査請求がされた行政庁は、原則として総務省に置かれた行政不服審査会に諮問をしなければならない。 5.妥当でない
「原則として総務省に置かれた行政不服審査会に諮問をしなければならない」としている点が妥当でない。国の行政不服審査会に諮問を行うわけではない。
審査庁は、審理員意見書の提出を受けたときは、・・・審査庁が地方公共団体の長(地方公共団体の組合にあっては、長、管理者又は理事会)である場合にあっては81条1項又は2項の機関に、それぞれ諮問しなければならない(行政不服審査法43条1項柱書き)。
地方公共団体に、執行機関の附属機関として、この法律の規定によりその権限に属させられた事項を処理するための機関を置く(行政不服審査法81条1項)。
当該地方公共団体における不服申立ての状況等に鑑み81条1項の機関を置くことが不適当または困難であるときは、条例で定めるところにより、事件ごとに、執行機関の附属機関として、この法律の規定によりその権限に属された事項を処理するための機関を置くこととすることができる(行政不服審査法81条2項)。
行政不服審査法では、国の機関が行う処分に限らず、適用除外にされるものを除き、すべての処分を対象としているので、地方公共団体の機関が行う処分についても、その根拠が法律にあるか、条例にあるかを問わず、原則として行政不服審査法の規定が適用され、行政不服審査会に相当する機関を地方公共団体も設けることを義務づけている。