令和4年-問43 多肢選択式 行政法
Lv3
問題 更新:2023-11-20 18:58:41
次の文章の空欄[ ア ]~[ エ ]に当てはまる語句を、枠内の選択肢(1~20)から選びなさい。
国家補償制度は、国家賠償と損失補償によって構成されるが、両者のいずれによっても救済されない問題が存在する。公務員の[ ア ]の違法行為による被害は、国家賠償法の救済の対象とはならず、他方、憲法29条3項によって求められる損失補償は、[ イ ]以外の権利利益についての被害には及ばないと考えられるからである。この救済の空白地帯は「国家補償の谷間」と呼ばれている。
「国家補償の谷間」の典型事例は予防接種による副反応被害である。この事例を損失補償により救済するアプローチは、[ イ ]よりも重要な利益である生命・身体の利益は、当然に憲法29条3項に規定する損失補償の対象となるとする[ ウ ]解釈によって、救済を図ろうとする。
これに対して、国家賠償による救済のアプローチをとる場合、予防接種の性質上、予診を尽くしたとしても、接種を受けることが適切でない者(禁忌者)を完全に見分けることが困難であり、医師による予診を初めとする公務員の行為は[ ア ]とされる可能性が残る。この点について、最高裁判所昭和51年9月30日判決は、予防接種により重篤な副反応が発生した場合に、担当医師がこうした結果を予見しえたのに、過誤により予見しなかったものと[ エ ]することで、実質的に、自らが[ ア ]であることの立証貢任を国側に負わせることで救済を図った。
- 自由裁量
- 合憲限定
- 生存権
- 無過失
- 正当な補償
- 文理
- 証明
- 緊急避難
- 重過失
- 特別の犠牲
- 推定
- 職務外
- 決定
- 事実行為
- 財産権
- 確定
- 反対
- 憲法上の権利
- 償うことのできない損害
- 勿論
- ア
-
- イ
-
- ウ
-
- エ
-
正解
- ア4
- イ15
- ウ20
- エ11
解説
ア:4(無過失)、イ:15(財産権)、ウ:20(勿論)、エ:11(推定)
空欄に補充した文章は以下のとおり。
国家補償制度は、国家賠償と損失補償によって構成されるが、両者のいずれによっても救済されない問題が存在する。公務員の[ア:無過失]の違法行為による被害は、国家賠償法の救済の対象とはならず、他方、憲法29条3項によって求められる損失補償は、[イ:財産権]以外の権利利益についての被害には及ばないと考えられるからである。この救済の空白地帯は「国家補償の谷間」と呼ばれている。
「国家補償の谷間」の典型事例は予防接種による副反応被害である。この事例を損失補償により救済するアプローチは、[イ:財産権]よりも重要な利益である生命・身体の利益は、当然に憲法29条3項に規定する損失補償の対象となるとする[ウ:勿論]解釈によって、救済を図ろうとする。
これに対して、国家賠償による救済のアプローチをとる場合、予防接種の性質上、予診を尽くしたとしても、接種を受けることが適切でない者(禁忌者)を完全に見分けることが困難であり、医師による予診を初めとする公務員の行為は[ア:無過失]とされる可能性が残る。この点について、最高裁判所昭和51年9月30日判決は、予防接種により重篤な副反応が発生した場合に、担当医師がこうした結果を予見しえたのに、過誤により予見しなかったものと[エ:推定]することで、実質的に、自らが[ア:無過失]であることの立証貢任を国側に負わせることで救済を図った。
「国家補償の谷間」についてはその扱いに関して過去の本試験でも憲法解釈を問われている。
現状の救済のアプローチとしては、なんらかの形で過失の存在を推定又は認定した上で、国家賠償請求によって救済しているのが判例の立場である。
国家賠償法の要件と損失補償の範囲に関する知識はもとより、「国家補償の谷間」で被害者救済を図ろうと様々な法解釈が検討されていることへの理解が必要な問題である。
ただし本問題は基本的な知識と併せて文章問題として解くことで得点することができる。
国家賠償法1条 |
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国又は公共団体の公権力の行使にあたる公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。 |
憲法29条3項 |
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私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる。 |
ア.無過失
本文では「公務員の[ア]の違法行為による被害は、国家賠償法の救済の対象とはならず」と救済がされないと否定している。そして国家賠償法1条は、公務員の故意又は過失の場合は賠償すると規定していることから、反対の言葉である「無過失」が入る。
イ.財産権
[イ]に入りそうな語句はこの後に「以外の権利利益」と続くのでなにかしらの権利と推定でき、中段の文章から[イ]は生命・身体の利益よりも重要性な利益ではないと推定できる。
ここで[イ]には「15:財産権」が入ると推定できるが、もちろん憲法29条3項の条文からも「財産権」を選択できる。
ウ.勿論
[ウ]には〇〇解釈が入るので、「反対解釈」「文理解釈」「勿論解釈」から選択できる。
「反対解釈」にすると意味がつながらなくなり、「文理解釈」は文章そのままの意味で解釈するので「国家補償の谷間」は埋まりそうにない。ここは「勿論」が適当である。
憲法29条3項勿論解釈説
憲法29条3項は、財産権について公共のための特別な犠牲がある場合には、これにつき損失補償を認めた規定がなくても、直接同条項を根拠として補償請求をすることができるものと解されているところ、この解釈が、生命、身体について前記特別な犠牲がある場合においても妥当することは勿論である(大阪地裁昭和62年9月30日)。
反対解釈 | Aという事柄について直接規定する条文がない場合に、同種の別の事柄を規定するBの反対の結果をAにあてはめて解釈すること |
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文理解釈 | 言葉の定義と日本語の文法に則り、法律の条文を解釈すること |
勿論解釈 | 条文で明確に定められていない事項でも、その趣旨や常識に照らして含まれるのは当然(もちろん)であると解釈すること |
エ.推定
判例は、「適切な問診を尽さなかったため、 接種対象者の症状、疾病その他異常な身体的条件及び体質的素因を認識することができず、禁忌すべき者の識別判断を誤って予防接種を実施した場合において、予防接種の異常な副反応により接種対象者が死亡又は罹病したときには、担当医師は接種に際し右結果を予見しえたものであるのに過誤により予見しなかったものと推定するのが相当である。」(最判昭和51年9月30日)とし、実質的に、自らが無過失であることの立証貢任を国側に負わせることで救済を図った。