令和5年-問1 基礎法学 法令の構造等
Lv3
問題 更新:2024-01-07 20:16:35
次の文章の空欄[ ア ]~[ エ ]に当てはまる語句の組合せとして、妥当なものはどれか。
明治8年太政官布告103号裁判事務心得の3条には、「民事の裁判に成文の法律なきものは[ ア ]に依り[ ア ]なきものは[ イ ]を推考して裁判すべし」という規定があり、民事裁判について「法の欠如」があるばあいに[ イ ]によるべきことがうたわれている。[ ウ ]の支配する刑法では罰則の欠如は当の行為につき犯罪の成立を否定する趣旨であるから、それは「法の欠如」ではない。ところが、民事裁判では、法の欠如があっても当事者に対して[ エ ](フランス民法4条)をすることはできず(憲法32条参照)、また、当然に原告を敗訴にすることももちろん法の趣旨ではない。
(出典 団藤重光「法学の基礎〔第2版〕」から<文章を一部省略した。>)
ア | イ | ウ | エ | ||
---|---|---|---|---|---|
1. | 習慣 | 条理 | 罪刑法定主義 | 裁判の拒否 | |
2. | 先例 | 習慣 | 罪刑法定主義 | 裁判の拒否 | |
3. | 先例 | 条理 | 適正手続 | 和解の勧奨 | |
4. | 習慣 | 条理 | 責任主義 | 裁判の拒否 | |
5. | 先例 | 習慣 | 責任主義 | 和解の勧奨 |
正解 1
解説
ア:習慣、イ:条理、ウ:罪刑法定主義、エ:裁判の拒否
空欄に補充した文章は以下のとおり。
明治8年太政官布告103号裁判事務心得の3条には、「民事の裁判に成文の法律なきものは[ア:習慣]に依り[ア:習慣]なきものは[イ:条理]を推考して裁判すべし」という規定があり、民事裁判について「法の欠如」があるばあいに[イ:条理]によるべきことがうたわれている。[ウ:罪刑法定主義]の支配する刑法では罰則の欠如は当の行為につき犯罪の成立を否定する趣旨であるから、それは「法の欠如」ではない。ところが、民事裁判では、法の欠如があっても当事者に対して[エ:裁判の拒否](フランス民法4条)をすることはできず(憲法32条参照)、また、当然に原告を敗訴することももちろん法の趣旨ではない。
(出典 団藤重光「法学の基礎〔第2版〕」から<文章を一部省略した。>)
民事裁判のルールについての問題文である。
ア:習慣、イ:条理
法の適用に関する通則法3条によると「公の秩序又は善良の風俗に反しない慣習は、法令の規定により認められたもの又は法令に規定されていない事項に関するものに限り、法律と同一の効力を有する」と規定されているため、民事裁判においても、成文の法律がないときは習慣によって判断され、習慣もないときは条理を推考して裁判することになる。
ウ:罪刑法定主義
刑法の根幹は、罪刑法定主義である。
罪刑法定主義とは、ある行為を犯罪として処罰するためには、立法府が制定する法令において、犯罪とされる行為の内容、及びそれに対して科される刑罰を予め、明確に規定しておかなければならないとする原則のことをいう。法諺「法律なければ刑罰なし」の意味でもある。
なお、罪刑法定主義は刑法に記載されていないが、憲法31条「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない。」に含まれていると解されている。
エ:裁判の拒否
何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪われない(憲法32条)。
本文「民事裁判では、法の欠如があっても当事者に対して[ エ ](フランス民法4条)をすることはできず(憲法32条参照)」では、法の欠如を理由としてできないこと、さらに「当然に原告を敗訴することももちろん法の趣旨ではない」にも対応することを踏まえると、[ エ ]は「裁判の拒否」が入ることになる。