令和5年-問4 憲法 社会権
Lv2
問題 更新:2024-01-07 20:25:18
国務請求権に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。
- 憲法は何人に対しても平穏に請願する権利を保障しているので、請願を受けた機関はそれを誠実に処理せねばならず、請願の内容を審理および判定する法的義務が課される。
- 立法行為は、法律の適用段階でその違憲性を争い得る以上、国家賠償の対象とならないが、そのような訴訟上の手段がない立法不作為についてのみ、例外的に国家賠償が認められるとするのが判例である。
- 憲法が保障する裁判を受ける権利は、刑事事件においては裁判所の裁判によらなければ刑罰を科せられないことを意味しており、この点では自由権的な側面を有している。
- 憲法は、抑留または拘禁された後に「無罪の裁判」を受けたときは法律の定めるところにより国にその補償を求めることができると規定するが、少年事件における不処分決定もまた、「無罪の裁判」に当たるとするのが判例である。
- 憲法は、裁判は公開の法廷における対審および判決によってなされると定めているが、訴訟の非訟化の趨勢(すうせい)をふまえれば、純然たる訴訟事件であっても公開の法廷における対審および判決によらない柔軟な処理が許されるとするのが判例である。
正解 3
解説
憲法は何人に対しても平穏に請願する権利を保障しているので、請願を受けた機関はそれを誠実に処理せねばならず、請願の内容を審理および判定する法的義務が課される。 1.妥当でない
憲法16条では請願権が権利として保障されているが、その権利の行使に伴い何らかの具体的な法的効果が生じるわけではなく、請願された事項について公の機関が審理したり、何らかの判定をする法的拘束力はない。
受理機関への請願の採択、事後処理等についても請願を受理し、誠実に処理する義務はあるが(請願法5条)、各機関の判断に任されており、処理報告等の法的な義務は定められていない。
立法行為は、法律の適用段階でその違憲性を争い得る以上、国家賠償の対象とならないが、そのような訴訟上の手段がない立法不作為についてのみ、例外的に国家賠償が認められるとするのが判例である。 2.妥当でない
立法行為については、不作為でなくとも違法となる可能性があることが判示されている。
国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらずあえて当該立法を行うというごとき例外的な場合でない限り、国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受けるものではない(最判昭和60年11月21日)。
例外的な場合に該当するなら、立法行為も国家賠償が認められる。
憲法が保障する裁判を受ける権利は、刑事事件においては裁判所の裁判によらなければ刑罰を科せられないことを意味しており、この点では自由権的な側面を有している。 3.妥当である
憲法32条の刑事事件における裁判を受ける権利は受益権のひとつであると考えられ、つねに公正・公平な裁判がおこなわれ、正式の訴えに対して裁判を怠ったり拒絶をされないという自由権的側面がある。
憲法は、抑留または拘禁された後に「無罪の裁判」を受けたときは法律の定めるところにより国にその補償を求めることができると規定するが、少年事件における不処分決定もまた、「無罪の裁判」に当たるとするのが判例である。 4.妥当でない
少年法に基づく不処分決定は、非行事実が認められないことを理由とするものであっても、刑事補償法1条1項にいう「無罪の裁判」にはあたらない(最判平成3年3月29日)。
また、この判例の中で「不処分の決定を経た事件について、刑事訴追をし、又は家庭裁判所の審判に付することを妨げる効力を有しない」とされているため、確定した無罪判決とは異なる扱いとされている。
憲法は、裁判は公開の法廷における対審および判決によってなされると定めているが、訴訟の非訟化の趨勢(すうせい)をふまえれば、純然たる訴訟事件であっても公開の法廷における対審および判決によらない柔軟な処理が許されるとするのが判例である。 5.妥当でない
純然たる訴訟事件に関しては、一部例外があるものの、公開、対審の裁判が原則である。
判例は「憲法は32条において、何人も裁判所において裁判を受ける権利を奪われないと規定し、82条において、裁判の対審及び判決は、対審についての同条2項の例外の場合を除き、公開の法廷でこれを行う旨を定めている。すなわち、憲法は一方において、基本的人権として裁判請求権を認め、何人も裁判所に対し裁判を請求して司法権による権利、利益の救済を求めることができることとすると共に、他方において、純然たる訴訟事件の裁判については、前記のごとき公開の原則の下における対審及び判決によるべき旨を定めたのであって、これにより、近代民主社会における人権の保障が全うされるのである。
したがって、もし性質上純然たる訴訟事件につき、当事者の意思いかんに拘わらず終局的に、事実を確定し当事者の主張する権利義務の存否を確定するような裁判が、憲法所定の例外の場合を除き、公開の法廷における対審及び判決によってなされないとするならば、それは憲法82条に違反すると共に、32条が基本的人権として裁判請求権を認めた趣旨をも没却するものといわねばならない(最大判昭和35年7月6日)」としている。
なお、民事訴訟に関しては「純然たる訴訟事件としての性質の認められる刑事制裁を科する作用とは異なるから、憲法82条、憲法32条の定めるところにより、公開の法廷における対審及び判決によって行なわれなければならないものではない(最判昭和41年12月27日)」などの判例がある。