令和5年-問17 行政法 行政事件訴訟法
Lv3
問題 更新:2024-01-07 21:01:05
以下の事案に関する次のア~エの記述のうち、妥当なものの組合せはどれか。
Xは、A川の河川敷の自己の所有地に小屋(以下「本件小屋」という。)を建設して所有している。A川の河川管理者であるB県知事は、河川管理上の支障があるとして、河川法に基づきXに対して本件小屋の除却を命ずる処分(以下「本件処分」という。)をした。しかし、Xは撤去の必要はないとして本件処分を無視していたところ、Xが本件処分の通知書を受け取ってから約8ヵ月が経過した時点で、同知事は、本件小屋の除却のための代執行を行うため、Xに対し、行政代執行法に基づく戒告および通知(以下「本件戒告等」という。)を行った。そこでXは、代執行を阻止するために抗告訴訟を提起することを考えている。
ア.本件戒告等には処分性が認められることから、Xは、本件処分の無効確認訴訟を提起するだけでなく、本件戒告等の取消訴訟をも提起できる。
イ.本件戒告等の取消訴訟において、Xは、本件戒告等の違法性だけでなく、本件処分の違法性も主張できる。
ウ.Xが本件処分の通知書を受け取ってから1年が経過していないことから、Xが本件処分の取消訴訟を提起しても、出訴期間の徒過を理由として却下されることはない。
エ.Xが本件戒告等の取消訴訟を提起したとしても、代執行手続が完了した後には、本件戒告等の効果が消滅したことから、当該訴訟は訴えの利益の欠如を理由に不適法として却下される。
- ア・イ
- ア・エ
- イ・ウ
- イ・エ
- ウ・エ
正解 2
解説
妥当なものはア、エである。
本件戒告等には処分性が認められることから、Xは、本件処分の無効確認訴訟を提起するだけでなく、本件戒告等の取消訴訟をも提起できる。 ア.妥当である
河川管理上の支障があるため河川法に基づきXに対してしたB県知事の小屋除却を命ずる処分には処分性がある。
また、同知事のXに対する行政代執行法に基づく戒告および通知は、判例では「行政代執行に基づく戒告や代執行令書による通知は、代執行が行われることをほぼ確実に表示するものであるから処分性が認められる」としており、処分性を肯定している(大阪高決昭和40年10月5日)。
小屋除却を命ずる処分(本件処分)及び行政代執行法に基づく戒告および通知(本件戒告等)は、主観的訴訟要件のひとつとしての「処分性がある」を満たしており、Xは本件処分の無効確認訴訟を提起するだけでなく、本件戒告等の取消訴訟を提起できるということになる。
本件戒告等の取消訴訟において、Xは、本件戒告等の違法性だけでなく、本件処分の違法性も主張できる。 イ.妥当でない
本件戒告等とは、小屋の除却のための代執行を行うため、行政代執行法に基づく戒告および通知である。また、本件処分とは、河川法に基づく本件小屋の除却を命ずる処分であって、それぞれ独立した行政行為である。
当該行政行為に違法性がある場合、その行政行為ごとに是正されるべきであり、違法性は承継されない。いわゆる「違法性の承継」と呼ばれるものだが、関連のある連続する別個の行政行為において、先行する行政行為が違法であっても、後行の行政行為には影響を及ぼさないのが原則である。
もっとも、例外的に先行行為と後行行為の目的が共通しており、相結合して同一の法的効果を生じる場合は、先行行為は後行行為の準備行為にすぎないため、違法性の承継が認められる(農地買収計画→買収処分:最判昭和25年9月15日)。
Xが本件処分の通知書を受け取ってから1年が経過していないことから、Xが本件処分の取消訴訟を提起しても、出訴期間の徒過を理由として却下されることはない。 ウ.妥当でない
Xは本件処分の通知書を約8ヵ月前に受け取っていることから、Xが本件処分の取消訴訟を提起した場合、出訴期間の徒過を理由として却下されることになる。
取消訴訟は、処分又は裁決があったことを知った日から6ヵ月以内に提起しなければならず(行政事件訴訟法14条1項)、また、処分又は裁決の日から1年をしたときは提起することができない。ただし、正当な理由があるときはこの限りではない(行政事件訴訟法14条2項)。
取消訴訟は、処分又は裁決があったことを知った日から6ヵ月を経過したときは提起することができないというこの期間について、判例は「処分があったことを知った日」とは、抽象的なしり得べかりし日ではなく、「当事者が書類の交付、口頭の告知、その他の方法により処分の存在を現実に知った日を指すもの」としている(最高裁平成14年10月24日)。
また、処分又は裁決の日から1年を経過したときも、原則として提起することができないというこの期間は、処分等を知ったかどうかにかかわらず進行するので、たとえ処分を知ったばかりであっても既に出訴できない場合もあり得ることになり、出訴する者は、この両方の出訴期間の制限を受けることになる。
Xが本件戒告等の取消訴訟を提起したとしても、代執行手続が完了した後には、本件戒告等の効果が消滅したことから、当該訴訟は訴えの利益の欠如を理由に不適法として却下される。 エ.正しい
土地収用法による明渡裁決の取消しを求める利益について判例は「建築基準法9条1項の規定により除却命令を受けた違反建築物について代執行による除却工事が完了した以上、除却命令および代執行令書発付処分の取消しを求める訴えは、その利益を有しないものと解すべきである(最判昭和48年3月6日)」としている。
行政代執行法に基づく戒告及び代執行令書発付処分の効果は、同法に基づく代執行の完了により消滅するから、代執行の完了後は、当該戒告及び当該発付処分の取消しを求める訴えの利益は認められない。