令和5年-問21 行政法 国家賠償法
Lv3
問題 更新:2024-01-07 21:08:36
次の文章は、国家賠償法1条2項に基づく求償権の性質が問われた事件において、最高裁判所が下した判決に付された補足意見のうち、同条1項の責任の性質に関して述べられた部分の一部である(文章は、文意を損ねない範囲で若干修正している)。空欄[ ア ]~[ エ ]に当てはまる語句の組合せとして、正しいものはどれか。
国家賠償法1条1項の性質については[ ア ]説と[ イ ]説が存在する。両説を区別する実益は、加害公務員又は加害行為が特定できない場合や加害公務員に[ ウ ]がない場合に、[ ア ]説では国家賠償責任が生じ得ないが[ イ ]説では生じ得る点に求められていた。しかし、最一小判昭和57年4月1日民集36巻4号519頁は、[ ア ]説か[ イ ]説かを明示することなく、「国又は公共団体の公務員による一連の職務上の行為の過程において他人に被害を生ぜしめた場合において、それが具体的にどの公務員のどのような違法行為によるものであるかを特定することができなくても、右の一連の行為のうちのいずれかに行為者の故意又は過失による違法行為があったのでなければ右の被害が生ずることはなかったであろうと認められ、かつ、それがどの行為であるにせよこれによる被害につき行為者の属する国又は公共団体が法律上賠償の責任を負うべき関係が存在するときは、国又は公共団体は損害賠償責任を免れることができない」と判示している。さらに、公務員の過失を[ エ ]過失と捉える裁判例が支配的となっており、個々の公務員の[ ウ ]を問題にする必要はないと思われる。したがって、[ ア ]説、[ イ ]説は、解釈論上の道具概念としての意義をほとんど失っているといってよい。
(最三小判令和2年7月14日民集74巻4号1305頁、字賀克也裁判官補足意見)
ア | イ | ウ | エ | ||
---|---|---|---|---|---|
1. | 代位責任 | 自己責任 | 有責性 | 組織的 | |
2. | 代位責任 | 自己責任 | 有責性 | 重大な | |
3. | 代位責任 | 自己責任 | 職務関連性 | 重大な | |
4. | 自己責任 | 代位責任 | 有責性 | 組織的 | |
5. | 自己責任 | 代位責任 | 職務関連性 | 重大な |
正解 1
解説
ア:代位責任、イ:自己責任、ウ:有責性、エ:組織的
空欄に補充した文章は以下のとおり。
国家賠償法1条1項の性質については[ア:代位責任]説と[イ:自己責任]説が存在する。両説を区別する実益は、加害公務員又は加害行為が特定できない場合や加害公務員に[ウ:有責性]がない場合に、[ア:代位責任]説では国家賠償責任が生じ得ないが[イ:自己責任]説では生じ得る点に求められていた。しかし、最一小判昭和57年4月1日民集36巻4号519頁は、[ア:代位責任]説か[イ:自己責任]説かを明示することなく、「国又は公共団体の公務員による一連の職務上の行為の過程において他人に被害を生ぜしめた場合において、それが具体的にどの公務員のどのような違法行為によるものであるかを特定することができなくても、右の一連の行為のうちのいずれかに行為者の故意又は過失による違法行為があったのでなければ右の被害が生ずることはなかったであろうと認められ、かつ、それがどの行為であるにせよこれによる被害につき行為者の属する国又は公共団体が法律上賠償の責任を負うべき関係が存在するときは、国又は公共団体は損害賠償責任を免れることができない」と判示している。さらに、公務員の過失を[エ:組織的]過失と捉える裁判例が支配的となっており、個々の公務員の[ウ:有責性]を問題にする必要はないと思われる。したがって、[ア:代位責任]説、[イ:自己責任]説は、解釈論上の道具概念としての意義をほとんど失っているといってよい。
(最三小判令和2年7月14日民集74巻4号1305頁、字賀克也裁判官補足意見)
国家賠償法1条1項 |
---|
国又は公共団体の公権力の行使にあたる公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。 |
国家賠償法1条2項 |
公務員に故意又は重大な過失があったときは、国又は公共団体はその公務員に対して求償権を有する。 |
公務員の故意又は過失のある違法な行為によって損害を受けた被害者がいる場合、国又は公共団体が負う国家賠償責任について、法的意義から解釈した「代位責任説」と「自己責任説」がある。
国家賠償法1条の賠償責任は、公務員個人が負っている責任を国が代位したものと考える「代位責任説」が判例の立場である。
「国家賠償法1条による国又は公共団体の賠償責任は公務員の故意又は過失に基づく加害行為を前提としてその責任を代位するものであるから、国又は公共団体が公務員の選任監督に過失がなかったことを立証しても、賠償責任を免れることができない(札幌高判昭和43年5月30日)。」
代位責任説
公務員個人の限られた財産では被害者の救済が十分に行われないおそれがあり、また、公務員の活動が委縮して十分な行政権の行使ができなくなるおそれがあるから国及び公共団体が公務員個人に代わってその損害賠償責任を負担するという説である。
判例・通説では、公務員個人が負っている責任を国が代位したものとする代位責任説をとるが、一部の下級裁判決や学説では、故意・重過失がある場合には公務員個人にも請求できるとするものもある。
自己責任説
公務員によって違法に行使される危険性は元々内在しており、国及び公共団体は、その危険性のある権限を付与したこと自体に責任があることから(危険責任論)、国及び公共団体そのものの責任として負担するという説である。