令和5年-問32 民法 債権
Lv3
問題 更新:2024-01-07 21:15:46
AとBとの間でA所有の美術品甲(以下「甲」という。)をBに売却する旨の本件売買契約が締結された。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定に照らし、妥当なものはどれか。
- Aは、Bが予め甲の受領を明確に拒んでいる場合であっても、甲につき弁済期に現実の提供をしなければ、履行遅滞の責任を免れない。
- Aは、Bが代金の支払を明確に拒んでいる場合であっても、相当期間を定めて支払の催告をしなければ、本件売買契約を解除することができない。
- Aが弁済期に甲を持参したところ、Bが甲を管理するための準備が整っていないことを理由に受領を拒んだため、Aは甲を持ち帰ったが、隣人の過失によって生じた火災により甲が損傷した。このような場合であっても、Bは、Aに対して甲の修補を請求することができる。
- Aが弁済期に甲を持参したところ、Bが甲を管理するための準備が整っていないことを理由に受領を拒んだため、Aは甲を持ち帰ったが、隣人の過失によって生じた火災により甲が滅失した。このような場合であっても、Bは、代金の支払を拒むことはできない。
- Aが弁済期に甲を持参したところ、Bが甲を管理するための準備が整っていないことを理由に受領を拒んだため、Aは甲を持ち帰ったが、隣人の過失によって生じた火災により甲が滅失した。このような場合であっても、Bは、本件売買契約を解除することができる。
正解 4
解説
Aは、Bが予め甲の受領を明確に拒んでいる場合であっても、甲につき弁済期に現実の提供をしなければ、履行遅滞の責任を免れない。 1.妥当でない
現実の提供をしなくても、履行遅滞の責任を免れることができる。
弁済の提供について条文は、債務の本旨に従って現実にしなければならないが、債権者があらかじめその受領を拒み、又は債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすれば足りるとしている(民法493条)。当該条文だけを読むと、弁済の提供は現実にするか、少なくとも口頭の提供はしなければいけないように読み取れる。
この点に関し判例は、債務者が言語上(口頭)の提供をしても、債権者が契約そのものの存在を否定する等弁済を受領しない意思が明確と認められる場合においては、口頭の提供すら不要であるとしている(最大判昭和32年6月5日)。
Aは、Bが代金の支払を明確に拒んでいる場合であっても、相当期間を定めて支払の催告をしなければ、本件売買契約を解除することができない。 2.妥当でない
債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したときは、債権者は、催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる(民法542条1項2号)。
Aが弁済期に甲を持参したところ、Bが甲を管理するための準備が整っていないことを理由に受領を拒んだため、Aは甲を持ち帰ったが、隣人の過失によって生じた火災により甲が損傷した。このような場合であっても、Bは、Aに対して甲の修補を請求することができる。 3.妥当でない
B(買主)は、A(売主)に対して甲の修補を請求できない。
肢4参照。
Aが弁済期に甲を持参したところ、Bが甲を管理するための準備が整っていないことを理由に受領を拒んだため、Aは甲を持ち帰ったが、隣人の過失によって生じた火災により甲が滅失した。このような場合であっても、Bは、代金の支払を拒むことはできない。 4.妥当である
売主が契約の内容に適合する目的物をもって、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払を拒むことができない(民法567条2項)。
Aが弁済期に甲を持参したところ、Bが甲を管理するための準備が整っていないことを理由に受領を拒んだため、Aは甲を持ち帰ったが、隣人の過失によって生じた火災により甲が滅失した。このような場合であっても、Bは、本件売買契約を解除することができる。 5.妥当でない
Bは本件売買契約を解除することができない。
肢4参照。