平成27年-問33改題 民法 債権
Lv3
問題 更新:2024-01-07 12:17:02
Aは、自己所有の甲建物をBに贈与する旨を約した(以下、「本件贈与」という)。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
- 本件贈与が口頭によるものであった場合、贈与契約は諾成契約であるから契約は成立するが、書面によらない贈与につき贈与者はいつでも解除することができるため、甲がBに引き渡されて所有権移転登記手続が終了した後であっても、Aは本件贈与を解除することができる。
- 本件贈与が書面によるものであるというためには、Aの贈与意思の確保を図るため、AB間において贈与契約書が作成され、作成日付、目的物、移転登記手続の期日および当事者の署名押印がされていなければならない。
- 本件贈与につき書面が作成され、その書面でAが死亡した時に本件贈与の効力が生じる旨の合意がされた場合、遺言が撤回自由であることに準じて、Aはいつでも本件贈与を解除することができる。
- 本件贈与につき書面が作成され、その書面でBがAの老後の扶養を行うことが約された場合、BがAの扶養をしないときであっても、甲の引渡しおよび所有権移転登記手続が終了していれば、Aは本件贈与を解除することができない。
- 本件贈与につき書面が作成され、その書面で、BがAの老後の扶養を行えばAが死亡した時に本件贈与の効力が生じる旨の合意がされた場合、Bが上記の負担を全部またはこれに類する程度まで履行したときであっても、特段の事情がない限り、Aは本件贈与を解除することができる。
正解 3
解説
本件贈与が口頭によるものであった場合、贈与契約は諾成契約であるから契約は成立するが、書面によらない贈与につき贈与者はいつでも解除することができるため、甲がBに引き渡されて所有権移転登記手続が終了した後であっても、Aは本件贈与を解除することができる。 1.妥当でない。
所有権移転登記手続が終了した後でも贈与契約を解除できるとする本肢は妥当でない。
条文は、書面によらない贈与は、各当事者が解除することができるが、履行の終わった部分については、この限りでないとしている(民法550条)。
「履行が終わった」という点について判例は、不動産の贈与契約において、当該不動産の所有権移転登記が経由されたときは、当該不動産の引渡の有無を問わず、贈与の履行を終ったものと解すべきであるとしている(最判昭和40年3月26日)。
不動産の場合は、所有権移転登記が終われば履行が終わったといえるとの判断を示したのである。
本件贈与が書面によるものであるというためには、Aの贈与意思の確保を図るため、AB間において贈与契約書が作成され、作成日付、目的物、移転登記手続の期日および当事者の署名押印がされていなければならない。 2.妥当でない。
判例は、贈与が書面によってされたといえるためには、贈与の意思表示自体が書面によっていることを必要としないことはもちろん、書面が贈与の当事者間で作成されたこと、又は書面に無償の趣旨の文言が記載されていることも必要とせず、書面に贈与がされたことを確実に看取しうる程度の記載があれば足りるとしている(最判昭和60年11月29日)。
つまり「贈与契約書」という形式のものは不要である。
判例によると贈与者が軽率に贈与することを予防し、かつ、贈与の意思を明確にすることを期するため(最判昭和60年11月29日)、これが達成できるのであれば、形式は問わないのである。
本件贈与につき書面が作成され、その書面でAが死亡した時に本件贈与の効力が生じる旨の合意がされた場合、遺言が撤回自由であることに準じて、Aはいつでも本件贈与を解除することができる。 3.妥当である。
判例は、死因贈与については、遺言の取消に関する民法1022条がその方式に関する部分を除いて準用されると解すべきであるとしている(最判昭和47年5月25日)。
遺言者は、いつでも、「遺言の方式に従って」、その遺言の全部又は一部を撤回することができる(民法1022条)とあり、この方式に関する部分を除いて準用されるのであるから、死因贈与契約を贈与者は解除できることになる。
なぜなら、死因贈与は贈与者の死亡によって贈与の効力が生ずるものであるが、かかる贈与者の死後の財産に関する処分については、遺贈と同様、贈与者の最終意思を尊重し、これによって決するのを相当とするからである(最判昭和47年5月25日)。
本件贈与につき書面が作成され、その書面でBがAの老後の扶養を行うことが約された場合、BがAの扶養をしないときであっても、甲の引渡しおよび所有権移転登記手続が終了していれば、Aは本件贈与を解除することができない。 4.妥当でない。
本件は、負担付贈与の問題である。
負担付贈与において特に問題になるのは、受贈者が負担した義務を怠ったとき、贈与者は贈与契約を解除することができるかである。
負担付贈与については、その性質に反しない限り、双務契約に関する規定を準用する(民法553条)が、双務契約の場面でよく問題になる債務不履行解除の規定を、負担付贈与の場面で使えるかについて判例は、債務不履行解除については負担付贈与の性質には反しないと考えられるため、受贈者が負担した義務を怠ったとき、贈与者は贈与契約を解除することができるとしている(最判昭和53年2月17日)。
本件贈与につき書面が作成され、その書面で、BがAの老後の扶養を行えばAが死亡した時に本件贈与の効力が生じる旨の合意がされた場合、Bが上記の負担を全部またはこれに類する程度まで履行したときであっても、特段の事情がない限り、Aは本件贈与を解除することができる。 5.妥当でない。
受贈者が負担を全部またはこれに類する程度まで履行した状況で、贈与者が負担付死因贈与契約を解除できるとする本肢は妥当でない。
判例は「負担の履行期が贈与者の生前と定められた負担付死因贈与契約に基づいて受贈者が約旨に従い負担の全部又はそれに類する程度の履行をした場合においては、贈与者の最終意思を尊重する余り受贈者の利益を犠牲にすることは相当でないから、当該贈与契約締結の動機、負担の価値と贈与財産の価値との相関関係、当該契約上の利害関係者間の身分関係その他の生活関係等に照らし当該負担の履行状況にもかかわらず負担付死因贈与契約の全部又は一部の取消(条文上の「解除」)をすることがやむをえないと認められる特段の事情がない限り、遺言の取消に関する民法1022条、1023条の各規定を準用するのは相当でないと解すべき」としている(最判昭和57年4月30日)。