平成26年-問30 民法 物権
Lv4
問題 更新:2024-01-04 16:17:29
物上代位に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、誤っているものはどれか。
- 対抗要件を備えた抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され、譲受人が第三者に対する対抗要件を備えた後であっても、第三債務者がその譲受人に対して弁済する前であれば、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。
- 対抗要件を備えた抵当権者が、物上代位権の行使として目的債権を差し押さえた場合、第三債務者が債務者に対して反対債権を有していたとしても、それが抵当権設定登記の後に取得したものであるときは、当該第三債務者は、その反対債権を自働債権とする目的債権との相殺をもって、抵当権者に対抗することはできない。
- 動産売買の先取特権に基づく物上代位につき、動産の買主が第三取得者に対して有する転売代金債権が譲渡され、譲受人が第三者に対する対抗要件を備えた場合であっても、当該動産の元来の売主は、第三取得者がその譲受人に転売代金を弁済していない限り、当該転売代金債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。
- 動産売買の先取特権に基づく物上代位につき、買主がその動産を用いて第三者のために請負工事を行った場合であっても、当該動産の請負代金全体に占める価格の割合や請負人(買主)の仕事内容に照らして、請負代金債権の全部または一部をもって転売代金債権と同視するに足りる特段の事情が認められるときは、動産の売主はその請負代金債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。
- 抵当権者は、抵当不動産につき債務者が有する賃料債権に対して物上代位権を行使することができるが、同不動産が転貸された場合は、原則として、賃借人が転借人に対して取得した転賃貸料債権を物上代位の目的とすることはできない。
正解 3
解説
対抗要件を備えた抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され、譲受人が第三者に対する対抗要件を備えた後であっても、第三債務者がその譲受人に対して弁済する前であれば、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。 1.正しい。
抵当権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができるが、抵当権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない(民法372条、民法304条1項)。
物上代位するための要件は「払渡し又は引渡前の差押え」なのである。
本肢の場面は債権譲渡後の差押えであるが、債権譲渡は「払渡し又は引渡」に含まれるのだろうか。含まれるとしたら、物上代位はできないため、問題となる。
これについて判例は、「民法304条1項の『払渡し又は引渡』には債権譲渡は含まれず、抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができるものと解するのが相当である」としている(最判平成10年1月30日)。
この理由はいくつかあるが説得力のある理由としては、対抗要件を備えた債権譲渡が物上代位に優先するものと解するならば、抵当権設定者は、抵当権者からの差押えの前に債権譲渡をすることによって、容易に物上代位権の行使を免れることができるが、このことは抵当権者の利益を不当に害するものというべきである。また、抵当権は通常登記によって公示されているのだから、債権の譲受人よりも、抵当権者が優先したとしても問題はないであろう。
したがって、債権譲渡後に抵当権者が物上代位権を行使することができるとする本肢は正しい。
対抗要件を備えた抵当権者が、物上代位権の行使として目的債権を差し押さえた場合、第三債務者が債務者に対して反対債権を有していたとしても、それが抵当権設定登記の後に取得したものであるときは、当該第三債務者は、その反対債権を自働債権とする目的債権との相殺をもって、抵当権者に対抗することはできない。 2.正しい。
判例によると「抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は、抵当不動産の賃借人は、抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって、抵当権者に対抗することはできないと解するのが相当である」とされる(最判平成13年3月13日)。
物上代位権の行使としての差押えのされる前においては、賃借人のする相殺は何ら制限されるものではないが、上記の差押えがされた後においては、抵当権の効力が物上代位の目的となった賃料債権にも及ぶところ、物上代位により抵当権の効力が賃料債権に及ぶことは抵当権設定登記により公示されているとみることができるからである。
動産売買の先取特権に基づく物上代位につき、動産の買主が第三取得者に対して有する転売代金債権が譲渡され、譲受人が第三者に対する対抗要件を備えた場合であっても、当該動産の元来の売主は、第三取得者がその譲受人に転売代金を弁済していない限り、当該転売代金債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。 3.誤り。
本肢は肢1と同様、物上代位の要件を問うている。
物上代位をするためには、払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない(民法304条1項)。では、権利者が先取特権者である場合(ここが肢1と異なると気付いて欲しい)、本肢の先取特権者は当該要件を満たし、物上代位権を行使することができるのであろうか。
これについて判例は「動産売買の先取特権者は、物上代位の目的債権が譲渡され、第三者に対する対抗要件が備えられた後においては、目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することはできないものと解するのが相当である」としている(最判平成17年2月22日)。
肢1解説と矛盾するように思えるのは「抵当権と先取特権の違い」に理由がある。動産の先取特権は抵当権とは異なり、登記という公示方法が存在しない。ゆえに債権の譲受人には先取特権者の存在が明らかでなく、先取特権者を優先させる場面ではないのである。
動産売買の先取特権に基づく物上代位につき、買主がその動産を用いて第三者のために請負工事を行った場合であっても、当該動産の請負代金全体に占める価格の割合や請負人(買主)の仕事内容に照らして、請負代金債権の全部または一部をもって転売代金債権と同視するに足りる特段の事情が認められるときは、動産の売主はその請負代金債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。 4.正しい。
本肢は、物上代位の「対象」に関する問題である。
条文によると、先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができると規定されている(民法304条1項)。
明文で物上代位の対象であると分かるのは「目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物」である。
本肢の請負代金債権は、物上代位の対象になるのだろうか。
判例は「請負工事に用いられた動産の売主は、原則として、請負人が注文者に対して有する請負代金債権に対して動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することができないが、請負代金全体に占める当該動産の価額の割合や請負契約における請負人の債務の内容等に照らして請負代金債権の全部又は一部を当該動産の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情がある場合には、当該部分の請負代金債権に対して物上代位権を行使することができると解するのが相当である」としている(最判平成10年12月18日)。
したがって、物上代位権を行使することができるとする本肢は正しい。
抵当権者は、抵当不動産につき債務者が有する賃料債権に対して物上代位権を行使することができるが、同不動産が転貸された場合は、原則として、賃借人が転借人に対して取得した転賃貸料債権を物上代位の目的とすることはできない。 5.正しい。
本肢も肢4と同様、物上代位の「対象」に関する問題である。
条文によると、抵当権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができると規定されている(民法372条、民法304条1項)。
ゆえに、抵当権者は、抵当不動産につき債務者が有する賃料債権に対して物上代位権を行使することができるのは条文から明らかである(賃料債権は「目的物の賃貸によって債務者が受けるべき金銭」にあたるから)。
では、転賃貸料債権はどうであろうか。
これについて判例は、「民法304条1項に規定する『債務者』には、原則として、抵当不動産の賃借人(転貸人)は含まれないものと解すべきである。なぜならば、所有者は被担保債権の履行について抵当不動産をもって物的責任を負担するものであるのに対し、抵当不動産の賃借人は、このような責任を負担するものではなく、自己に属する債権を被担保債権の弁済に供されるべき立場にはないからである」とした(最判平成12年4月14日)。
したがって、原則として、転賃貸料債権を物上代位の目的とすることはできないとした本肢は正しい。