令和2年-問32 民法 債権
Lv3
問題 更新:2023-01-28 12:01:53
同時履行の抗弁権に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
- 双務契約が一方当事者の詐欺を理由として取り消された場合においては、詐欺を行った当事者は、当事者双方の原状回復義務の履行につき、同時履行の抗弁権を行使することができない。
- 家屋の賃貸借が終了し、賃借人が造作買取請求権を有する場合においては、賃貸人が造作代金を提供するまで、賃借人は、家屋の明渡しを拒むことができる。
- 家屋の賃貸借が終了し、賃借人が敷金返還請求権を有する場合においては、賃貸人が敷金を提供するまで、賃借人は、家屋の明渡しを拒むことができる。
- 請負契約においては仕事完成義務と報酬支払義務とが同時履行の関係に立つため、物の引渡しを要する場合であっても、特約がない限り、仕事を完成させた請負人は、目的物の引渡しに先立って報酬の支払を求めることができ、注文者はこれを拒むことができない。
- 売買契約の買主は、売主から履行の提供があっても、その提供が継続されない限り、同時履行の抗弁権を失わない。
正解 5
解説
双務契約が一方当事者の詐欺を理由として取り消された場合においては、詐欺を行った当事者は、当事者双方の原状回復義務の履行につき、同時履行の抗弁権を行使することができない。 1.妥当でない
「詐欺を行った当事者は、当事者双方の原状回復義務の履行につき、同時履行の抗弁権を行使することができない」としている点が妥当でない。
双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる(民法533条本文)。
判例は、「売買契約が詐欺を理由として取り消された場合における当事者双方の原状回復義務は、同時履行の関係にあると解するのが相当である。」(最判昭和47年9月7日)としている。
家屋の賃貸借が終了し、賃借人が造作買取請求権を有する場合においては、賃貸人が造作代金を提供するまで、賃借人は、家屋の明渡しを拒むことができる。 2.妥当でない
判例は、「借家法5条により造作の買収を請求した家屋の賃借人は、その代金の不払を理由として右家屋を留置し、または右代金の提供がないことを理由として同時履行の抗弁により右家屋の明渡を拒むことはできない」(最判昭和29年7月22日)としており、否定的な立場をとっている。
家屋の賃貸借が終了し、賃借人が敷金返還請求権を有する場合においては、賃貸人が敷金を提供するまで、賃借人は、家屋の明渡しを拒むことができる。 3.妥当でない
「賃貸人が敷金を提供するまで、賃借人は、家屋の明渡しを拒むことができる」としている点が妥当でない。
判例は、「賃貸人は、特別の約定のないかぎり、賃借人から家屋明渡を受けた後に前記の敷金残額を返還すれば足りるものと解すべく、したがって、家屋明渡債務と敷金返還債務とは同時履行の関係にたつものではない」(最判昭和49年9月2日)としている。
請負契約においては仕事完成義務と報酬支払義務とが同時履行の関係に立つため、物の引渡しを要する場合であっても、特約がない限り、仕事を完成させた請負人は、目的物の引渡しに先立って報酬の支払を求めることができ、注文者はこれを拒むことができない。 4.妥当でない
「仕事完成義務と報酬支払義務は同時履行に立つ」としている点が妥当でない。
仕事完成義務と報酬支払義務は、同時履行の関係ではない。
先に仕事を完成させなければ、報酬を請求することができないが(民法624条1項)、仕事の目的物の引渡しは、注文者の報酬支払義務と同時履行の関係にある(民法633条)。
注文者の報酬支払義務と 請負人の目的物引渡義務 |
原則として同時履行(民法633条本文) |
物の引渡なし: 仕事終了後でなければ、報酬請求不可 (民法633条ただし書き、民法624条) |
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注文者の報酬支払義務と 請負人の仕事完成義務 |
同時履行ではない(民法624条) (仕事完成が先履行) |
売買契約の買主は、売主から履行の提供があっても、その提供が継続されない限り、同時履行の抗弁権を失わない。 5.妥当である
双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる(民法533条本文)。
相手方が債務の履行をしたときに、同時履行の抗弁権は消滅するのかについて、判例は「双務契約の当事者の一方は相手方の履行の提供があっても、その提供が継続されない限り同時履行の抗弁権を失うものでない」(最判昭和34年5月14日)としている。