令和5年-問29 民法 物権
Lv4
問題 更新:2024-01-07 21:13:12
Aが家電製品の販売業者のBに対して有する貸金債権の担保として、Bが営業用動産として所有し、甲倉庫内において保管する在庫商品の一切につき、Aのために集合(流動)動産譲渡担保権(以下「本件譲渡担保権」という。)を設定した。この場合に関する次の記述のうち、判例に照らし、妥当でないものはどれか。
- 構成部分が変動する集合動産についても、その種類、場所および量的範囲が指定され、目的物の範囲が特定されている場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的とすることができ、当該集合物につき、AはBから占有改定の引渡しを受けることによって対抗要件が具備される。
- 本件譲渡担保権の設定後に、Bが新たな家電製品乙(以下「乙」という。)を営業用に仕入れて甲倉庫内に搬入した場合であっても、集合物としての同一性が損なわれていない限り、本件譲渡担保権の効力は乙に及ぶ。
- 本件譲渡担保権の設定後であっても、通常の営業の範囲に属する場合であれば、Bは甲倉庫内の在庫商品を処分する権限を有する。
- 甲倉庫内の在庫商品の中に、CがBに対して売却した家電製品丙(以下「丙」という。)が含まれており、Bが履行期日までに丙の売買代金を支払わない場合、丙についてAが既に占有改定による引渡しを受けていたときは、Cは丙について動産先取特権を行使することができない。
- 甲倉庫内の在庫商品の中に、DがBに対して所有権留保特約付きの売買契約によって売却した家電製品丁(以下「丁」という。)が含まれており、Bが履行期日までに丁の売買代金をDに支払わないときにはDに所有権が留保される旨が定められていた場合でも、丁についてAが既に占有改定による引渡しを受けていたときは、Aは、Dに対して本件譲渡担保権を当然に主張することができる。
正解 5
解説
「集合動産の譲渡担保」とは、特定された範囲の個々の動産を一個の集合物として捉えて、それに譲渡担保を設定することである。
例えば、倉庫内にある機械・器具・在庫商品などを一括して譲渡担保の目的にする場合である。
その仕組上、集合動産の譲渡担保の目的物は、流動的であり、すなわち一定の範囲内で入れ替わることが前提になっている。
構成部分が変動する集合動産についても、その種類、場所および量的範囲が指定され、目的物の範囲が特定されている場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的とすることができ、当該集合物につき、AはBから占有改定の引渡しを受けることによって対抗要件が具備される。 1.妥当である
構成部分の変動する集合動産であっても、その種類所在場所及び量的範囲を指定するなどの方法により目的物の範囲が特定される場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的となりうる(最判昭和54年2月15日)。
また、構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権の設定者がその構成部分である動産の占有を取得したときは、譲渡担保権者が占有改定の方法によって占有権を取得する旨の合意があり、譲渡担保権設定者がその構成部分として現に存在する動産の占有を取得した場合には、譲渡担保権者は譲渡担保権につき対抗要件を具備し、その効力は新たにその構成部分となった動産を包含する集合物に及ぶ(最判昭和62年11月10日)。
本件譲渡担保権の設定後に、Bが新たな家電製品乙(以下「乙」という。)を営業用に仕入れて甲倉庫内に搬入した場合であっても、集合物としての同一性が損なわれていない限り、本件譲渡担保権の効力は乙に及ぶ。 2.妥当である
債権者と債務者との間に、集合物を目的とする譲渡担保権設定契約が締結され、その際に債権者が占有改定の方法により現に存在する動産の占有を取得した場合には、債権者は、当該集合物を目的とする譲渡担保権につき対抗要件を具備したことになり、その効力は、その後構成部分が変動したとしても、集合物としての同一性が損なわれない限り、新たにその構成部分となった動産を包含する集合物について及ぶ(最判昭和62年11月10日)。
本件譲渡担保権の設定後であっても、通常の営業の範囲に属する場合であれば、Bは甲倉庫内の在庫商品を処分する権限を有する。 3.妥当である
構成部分の変動する集合動産を目的とする譲渡担保においては、集合物の内容が譲渡担保設定者の営業活動を通じて当然に変動することが予定されているのであるから、譲渡担保設定者には、その通常の営業の範囲内で、譲渡担保の目的を構成する動産を処分する権限が付与されており、この権限内でされた処分の相手方は、当該動産について、譲渡担保の拘束を受けることなく確定的に所有権を取得することができる(最判平成18年7月20日)。
したがって、通常の営業の範囲に属する場合であれば、Bは甲倉庫内の在庫商品を処分する権限を有する。
なお、対抗要件を備えた譲渡担保の設定者が、その目的物である動産につき通常の営業の範囲を超える売却処分をした場合、当該譲渡担保の目的である集合物から離脱したと認められない限り、当該処分の相手方は目的物の所有権を承継取得することはできない(最判平成18年7月20日)。
甲倉庫内の在庫商品の中に、CがBに対して売却した家電製品丙(以下「丙」という。)が含まれており、Bが履行期日までに丙の売買代金を支払わない場合、丙についてAが既に占有改定による引渡しを受けていたときは、Cは丙について動産先取特権を行使することができない。 4.妥当である
先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない(民法333条)。
そして動産売買の先取特権の存在する動産が譲渡担保権の目的である集合物の構成部分となった場合は、債権者は、動産についても引渡を受けたものとして譲渡担保権を主張することができ、特段の事情のない限り、民法333条の第三取得者に該当する(最判昭和62年11月10日)。
したがってCは丙について動産先取特権を行使することができない。
甲倉庫内の在庫商品の中に、DがBに対して所有権留保特約付きの売買契約によって売却した家電製品丁(以下「丁」という。)が含まれており、Bが履行期日までに丁の売買代金をDに支払わないときにはDに所有権が留保される旨が定められていた場合でも、丁についてAが既に占有改定による引渡しを受けていたときは、Aは、Dに対して本件譲渡担保権を当然に主張することができる。 5.妥当でない
丁についてAが既に占有改定による引渡しを受けていても、Aは、Dに対して本件譲渡担保権を当然に主張することはできない。
集合物について譲渡担保の占有改定をした場合は、その後に集合物に入ってきた動産についても占有改定の効力が及ぶ(最判昭和62年11月10日)。
しかし、継続的な売買契約において目的物の所有権が売買代金の完済まで売主に留保される旨が定められた場合に、売主は買主に動産の転売を包括的に承諾していたが、これは売主が買主に契約の売買代金を支払うための資金を確保させる趣旨であり、売買代金が完済されていない動産については、売主に譲渡担保権を主張することができない(最判平成30年12月7日)。