平成27年-問9 行政法 行政総論
Lv2
問題 更新:2023-01-30 18:39:55
国と国家公務員との法律関係に関する次の記述のうち、最高裁判所の判決に照らし、正しいものはどれか。
- 国と国家公務員は特別な社会的接触の関係にあるので、公務災害の場合、国は、一般的に認められる信義則上の義務に基づいて賠償責任を負うことはない。
- 安全配慮義務は私法上の義務であるので、国と国家公務員との間の公務員法上の関係においては、安全配慮義務に基づく責任は認められない。
- 公務災害に関する賠償は、国の公法上の義務であるから、これに民法の規定を適用する余地はない。
- 公務災害に関する賠償については、国家賠償法に基づく不法行為責任が認められる場合に限られ、上司等の故意過失が要件とされる。
- 公務災害に関わる金銭債権の消滅時効期間については、早期決済の必要性など行政上の便宜を考慮する必要がないので、会計法の規定は適用されず、民法の規定が適用される。
正解 5
解説
本問は、最判昭和50年2月25日の事案である。
自動車整備作業中に車両に轢かれて死亡した自衛隊員Aの遺族が原告となって、自賠法3条に基づいて国を訴えた事件であるが、第一審は、事故発生から3年以上経過しており、時効が完成していることを理由に請求は棄却された。
そこで、原告は第二審で、Aと被告国との雇用関係に着目し、安全配慮義務違反である旨の主張を追加した。
これは、本事故を不法行為債権(時効3年)ではなく、雇用契約上の債務不履行として構成することによって時効の壁の回避を狙ったものであるが、第二審は、「特別権力関係の理論」により、国に債務不履行責任はないと判断し、控訴を棄却した。
これに対し、最高裁は「安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものであって、国と公務員との間においても別異に解すべき論拠はない」とした上で、原告が主張した構成を認めて、控訴審判決を破棄して差し戻した(最判昭和50年2月25日)。
なお、「特別権力関係の理論」とは、公権力と特殊な関係にある者は(在監者や公務員など)、特別な人権制限が許され(=法治主義の原則は廃除される)、その内部の行為は原則として司法審査の対象にならないという理論で、旧憲法では通説的な考え方であったが、現在の憲法における「法の支配」「基本的人権の尊重」などの下では、妥当しえないとの批判を受け、過去の理論として扱われつつある。
国と国家公務員は特別な社会的接触の関係にあるので、公務災害の場合、国は、一般的に認められる信義則上の義務に基づいて賠償責任を負うことはない。 1.誤り。
判例は、国と公務員との間であっても、信義則上発生する義務として安全配慮義務が認められ、安全配慮義務違反につき損害賠償責任が発生するとしている(最判昭和50年2月25日)。
安全配慮義務は私法上の義務であるので、国と国家公務員との間の公務員法上の関係においては、安全配慮義務に基づく責任は認められない。 2.誤り。
私法関係か公法関係ということで、安全配慮義務の有無が決まるわけではない。
判例は、安全配慮義務は、「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において」信義則上発生する義務であるとしている(最判昭和50年2月25日)。
公務災害に関する賠償は、国の公法上の義務であるから、これに民法の規定を適用する余地はない。 3.誤り。
判例は「損害賠償請求権の消滅時効期間は、会計法30条所定の5年と解すべきではなく、民法167条1項(2020年改正:民法166条1項2号)により10年と解すべきである」として、国の公務員に対する損害賠償請求権につき民法の規定の適用を認めている(最判昭和50年2月25日)。
なお、2020年の民法改正により、人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効は、権利を行使することができることを知った時から5年、権利を行使することができる時から20年となる(民法167条)。
公務災害に関する賠償については、国家賠償法に基づく不法行為責任が認められる場合に限られ、上司等の故意過失が要件とされる。 4.誤り。
判例は、公務災害に関する賠償については、国家賠償法に基づく不法行為責任が認められる場合に限られず、公務員関係における安全配慮義務違反の場合も認められるとしている(最判昭和50年2月25日)。
公務災害に関わる金銭債権の消滅時効期間については、早期決済の必要性など行政上の便宜を考慮する必要がないので、会計法の規定は適用されず、民法の規定が適用される。 5.正しい。
判例は「国が、公務員に対する安全配慮義務を懈怠し違法に公務員の生命、健康等を侵害して損害を受けた公務員に対し損害賠償の義務を負う事態は、その発生が偶発的であって多発するものとはいえないから、右義務につき・・・行政上の便宜を考慮する必要はなく、・・・国に対する右損害賠償請求権の消滅時効期間は、会計法30条所定の5年と解すべきではなく、民法167条1項(2020年改正:民法166条1項2号)により10年と解すべきである」としている(最判昭和50年2月25日)。